"ultimate manned fighter"なんて最初から無かった

『丸』2014年5月号の記事は無かったことにして(いずれ国会図書館で航空専門誌の1956年3〜6月号あたりを当たってみるから今はご勘弁)、そもそもいつから「最後の有人戦闘機の原文は"ultimate manned fighter"」と言われるようになったのか、を探ってみる。

はい、Googleは過度に信頼できないと承知の上で、あえてきっぱり言い切ります。日本語版ウィキペディア「「F-104 (戦闘機)」」こそが原点です。あの根拠薄弱な記述から始まって、伝言ゲーム状態でいつしか「本当は"究極の"! "最後の有人戦闘機"は誤訳!!」とまで言い出す人まで現れてしまった。

ウィキペは過去の版を遡れるので、まずウィキペにはいつどのように書かれたかを確認しました。

<これはこのページの過去の版です。Marsian (会話 | 投稿記録) による 2004年8月2日 (月) 14:04 (個人設定で未設定ならUTC)時点の版であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。>
 
登場時はアポロ計画など宇宙開発の進行やSFの影響で、将来の戦闘機は自律制御コンピュータが搭載されパイロットは無用になる、との見方があった。そのためか、日本では最後の有人戦闘機とも呼ばれた。これはultimate manned fighterを訳したものだと言われているが、英語圏ではこのような表現はほとんどされていないようだ(少なくとも、日本ではかなり有名な表現であるのに英語版wikipediaのF-104にはそのような表現はない。the last of the day fighters//最後の「昼間戦闘機」との表現はある)。
注)最初の無人戦闘機F-99ボマークと対をなして呼ばれたとの説もある。

これが最初の記述。ていうか最初から「最後の有人戦闘機はultimate manned fighterを訳したと言われるが、英語圏ではこのような表現はされていない」と書かれていたのに、誰も"ultimate manned fighter"がホントに有ったのかを検証しなかったんですねぇ。

そこからGoogleの期間特定検索でたどってみると面白い。「2004年12月31日より前」には当ブログのみがヒット(これははてなダイヤリーの仕様のいたずらで2015年7月のエントリが反映されてしまった)、「2005年12月31日より前」にすると他のサイトがひとつヒットしますが、それはウィキペ丸写し。「2006年12月31日より前」にするとさらにひとつヒットしますが、これまたウィキペ丸写し。

一方、2ちゃんの過去ログの中にはこんな書き込みがありました。

127 :名無し三等兵:2006/04/17(月) 13:38:30 ID:???
>>104
それ嘘。「ultimate manned fighter」の誤訳って説もあるが、そういう記述も
英語資料ではまず見ない。

128 :名無し三等兵:2006/04/17(月) 13:45:01 ID:???
>>127
日本で実際にそう言われていたわけで嘘ってのは言い過ぎかと。
そりゃ、アメリカ軍やロッキードにそう言われていたってのであれば嘘っぽいが

http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/army/1145177209/

「2007年12月31日より前」にすると…あちゃぁ、「石川県立航空プラザ | 明日は昨日の為にある - Teacup」がヒットした(苦笑)。
gray.ap.teacup.com/unknown/296.html
私も疑ってなかった、というか"ultimate manned fighter"説を広める片棒を担いでしまったのか。
これも含めて、2007年になるとだんだん話が込み入ってきます。
上記のようなウィキペに基づく記述や、相変わらずのウィキペ丸写しが見られますが、それに加えて

サンダーバード妄想日記」2007年9月16日付
F−104
http://ir-fan.cocolog-wbs.com/blog/2007/09/
 
 F−104はミサイルのような細い胴体に小さな翼をつけた形状から、”The Ultimate Manned Fighter”(究極の有人戦闘機)と呼ばれていたそうです。徹底的に無駄を排して絞り込んだ機体のため、兵装の搭載量が少ない事からアメリカ空軍向けは少数に留まってしまいましたが、NATO諸国や日本では全天候型多目的戦闘機として長く活用されました。
(参考:「自衛隊の名機シリーズ 航空自衛隊F−86/F−104(イカロス出版)」、「JASDF Collection F−104J解説書」)

ウィキペ以外を出典とする"ultimate manned fighter"が出てきます。

ただ、イカロス出版は専門出版社だからいいとして(ともあれこれもいずれ閲覧しないと…)、JASDF Collection ってエフトイズのいわゆる食玩なんですよね…。だから解説書も、ウィキペを横目に書いたのでは? という疑いを持ってしまいます。
そしてもうひとつ! 初めてみました、英語圏の"ultimate manned fighter"!!

The X-49 was General Resource's ultimate manned fighter; stolen by the Ouroboros in 2045.

って、F-104じゃないのかよ!!
えーと、"List of fictional aircraft in Ace Combat"だそうです。頭に User:The ed17 と付いてるから通常の記事ではないのかも。無関係なのでこれ以上掘り下げません。
https://en.wikipedia.org/wiki/User:The_ed17/List_of_fictional_aircraft_in_Ace_Combat

2008年を飛ばして「2009年12月31日より前」、今度はハングルがヒットする。
http://m.blog.daum.net/koreanmarinecorps/858
私には読めませんが、これもどうやら日本語版ウィキペディアの翻訳のようです。

そして「2010年12月31日より前」、ここからが酷いヒドイ。

「最後の有人戦闘機」とは、来る航空自衛隊ミサイル時代により戦闘機に代わり地対空ミサイルが主役になる事を予期していたため、当時このように言われていた。(実際には今でも戦闘機が主役)

・・・が、実はUltimate Manned Fighter(究極の有人戦闘機)を「最後の有人戦闘機」と誤訳されたのが発端。
 
http://navyfan.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-b569.html

ご存知「最後の有人戦闘機」。…まぁこれはアメリカで言われていた「Ultimate Manned Fighter」(究極の有人戦闘機)を日本の誰かが
よりインパクトがあるように和訳したのが広まっただけ、という説が有力だそうですが

http://dourakuya.x.fc2.com/komatsu10.htm

なんとまぁ、なんとまあ。
「誤訳」をことさら強調するように、話に尾ひれが付いています。
「2010年12月31日より前」になるとさらに事態は悪化。

余談だけど このF-104 スターファイターは、
最後の有人戦闘機といわれたけど、

これは、ultimate manned fighterを直訳したもので、

正確には 究極の有人戦闘機 なのだ!

http://blogs.yahoo.co.jp/yhmatyami2/21949291.html

F-104のキャッチコピーultimate manned fighter(究極の有人戦闘機)が何故か最後の有人戦闘機と誤訳され、今でもその誤訳が今でも流通してるのはどうにかならんかね?

"ultimate manned fighter"こそが正しい! 「最後の有人戦闘機」は間違い!と知った風な口をたたく声高に主張する人たちが目立ちはじめる。
あろうことか「航空軍事用語辞典」まで同様に「Ultimate Manned Fighterアルティメット・マンド・ファイター と呼ばれ、日本語訳すると「究極の有人戦闘機」となるはずであったが、なぜか「最後の有人戦闘機」と和訳された。」としている。
http://mmsdf.sakura.ne.jp/public/glossary/pukiwiki.php?%BA%C7%B8%E5%A4%CE%CD%AD%BF%CD%C0%EF%C6%AE%B5%A1

だからさ、そもそも"ultimate manned fighter"ってどこから出てきたのよ? 2004年8月2日以前に"ultimate manned fighter"が書かれた記事をご存知の方はどうか教えてください。