F-104は"ultimate manned fighter"と称された、との説があった

というわけで(http://d.hatena.ne.jp/UnKnown/20150713)本日、ちょっと大宅文庫まで行ってきた。本題の「蒸発」「人間蒸発」は思ったよりややこしい方向に行ってしまったため、後ほどまとめるとして、ついでで当たってみた「最後の有人戦闘機」「人が乗る最後の戦闘機」F-104の件。
 
まず大前提として、ロッキードF-104スターファイターは、日本では「最後の有人戦闘機」「人が乗る最後の戦闘機」と言われておりました。これには疑う余地が無いのですが、問題なのは"ultimate manned fighter"の翻訳(意訳)で「最後の有人戦闘機」になった、とする俗説。
 
2010年1月14日付のコメント欄に、私はこう書いています。
http://d.hatena.ne.jp/UnKnown/20100114

「ultimateの意訳で「最後の」になったというのは本当か?」という疑問があるんです。
 
上で引用したウィキペディアの記述にもあるとおり、「英語圏ではこのような表現はほとんどされていない」らしい。試しに「ultimate manned fighter f-104」で検索しても、日本のサイトか全く無関係なサイトしか引っかかってきません。『F-104J 人間が乗る最後の戦闘機』という記録映画は、F-104「J」ということはこれも日本製の映画でしょう。となるとこれについても、"F-104J ultimate manned fighter"という原題があったとは考えにくい。
 
ultimate説がいつ頃どこからきたのか判然としませんが、実は素直に「last manned fighter」の意味として、日本で言われ出した言い回しじゃないかと思っています。

 
でもって、2012年3月2日付では『世界の傑作機 (No.103)  F-104 スターファイター』(asin:4893191071)の記述を取り上げて、ロッキード社の公式のキャッチフレーズである"Missile With A Man In It"の意訳が「最後の有人戦闘機」だった、との説を取りました。
http://d.hatena.ne.jp/UnKnown/20120302
 
ところが本日、英語圏でも"ultimate manned fighter"と称された、との説を見つけてしまったのですよ。
雑誌『丸』の2014年5月号、F-4EJ特集の一部として掲載された「F-104 スターファイターの栄光」という記事に、このように書かれていました。

一九五六年二月一六日、この新型機が空軍によりバーバンク工場で初めて記者公開された。およそ二年間にわたる極秘のテストの結果、XF-104に比べるとずっと洗練された戦闘機に生まれ変わったこの期待はYF-104Aの二号機だったが、記者会見で空軍はこの戦闘機を「The Ultimate Manned Fighter(究極の有人戦闘機)」という表現で説明した。
このため新聞や雑誌、ニュース映画などは「人間が乗る最後の戦闘機」として紹介し、このニュースは世界中にすさまじい戦闘機が出現した、という話題を提供した。

いつ・だれが・どの状況で"The Ultimate Manned Fighter"と言ったか、そしてどう伝わったかが明確に書かれています。しかもこれは署名原稿で、内容に対する責任の所在もはっきりしている(けど私はメモも複写も忘れてしまって、それが誰かはすぐにはわからない)。なので相当に信頼していいでしょう。
 
なんだけども、どうも釈然としない。引っかかるのはまず「いま現在、英語圏では全く"Ultimate Manned Fighter"との表現が見られない」という点。「新聞や雑誌、ニュース映画などは『人間が乗る最後の戦闘機』として紹介」「世界中にすさまじい戦闘機が出現した、という話題を提供した」というのが本当なら、英語版Wikipediaの"Lockheed F-104 Starfighter"の項くらいには書かれていそうなものですが、全く見当たりません。Ultimateのみならず、最後の"last"や有人"Manned"という単語すら書かれていない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Lockheed_F-104_Starfighter
 
それともう一つ、日本では以前から「最後の有人戦闘機の原文は"Ultimate Manned Fighter"である」と信じられていたのに、その"Ultimate Manned Fighter"の初出は不明瞭だったという点。仮にお披露目の際の記者会見での発言が初出であるなら、普通に知られていそうなものなのに、2014年のこの記事まで忘れられていたというのも引っかかる。

んー、仮に記者発表での空軍の発言に"The Ultimate Manned Fighter"なる文言があったとしても、それを後に日本で定着する「最後の有人戦闘機」の原文とするのはちょっと無理じゃないですかね?
(つづく
http://d.hatena.ne.jp/UnKnown/20150720