「動力分散方式の推進技術」が新技術?

産経新聞の「時速600キロ目指す韓国版新幹線 必要なのか」という記事が酷かった。ツッコミを入れる価値すら無いが、しかしこれほどバカな記事も珍しいので取り上げてみる。あえてウラを取らない。記事に書かれている範囲だけでも記者は基礎のキソから判っていないと判断できるし、その無知故にとにかくトンチンカンな記事になっている。

http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/141126/wor14112612000001-n1.html
時速600キロ目指す韓国版新幹線 必要なのか
産経デジタルIZA 2014.11.26 12:00付)
(略)
韓国では「HEMU−430X」、通称・ヘム(海霧)と呼ばれる車両が昨年3月、すでに試験走行で時速421キロの最高速度を達成している。鉄輪式鉄道では、フランスのTGV(時速574キロ)、中国の和諧号(時速487キロ)、そして日本の新幹線(時速443キロ)に次いで、世界で4番目の速さだ。

 韓国・国家技術標準院は昨年12月、経済的な波及効果が大きい新技術の一つにヘムに用いられている動力分散方式の推進技術を選定した。韓国政府の入れ込みようがうがかえる。聯合ニュースは「(新型車両が)一般走行速度の370キロで走れば、ソウルから釜山まで1時間30分台での移動が可能だ」と報じた。

動力分散方式というのはイコール新幹線方式なんですが、それが新技術?
そらまぁ韓国が日本の技術を輸入せず、独自に開発した……という意味においてなら「新技術」と言える。しかしこれを書いた記者は単に「動力分散方式イコール新幹線方式」と知らないだけでなく、そもそもそれがどういうものかもわかっていないのだ。
3ページ目にこうある。

http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/141126/wor14112612000001-n3.html
韓国の高速鉄道はKTXの開発段階から、仏TGVのシステムを採用しており、今さら新幹線のシステムを導入することは不可能らしい。そもそも、TGVはヨーロッパの起伏の少ない地形を前提としており、起伏が激しく湿度も高い韓国の風土には不向きだと指摘されているのだが…。

え? 動力集中方式のTGVは起伏が激しい韓国には不向き、だからこそ新型のヘムは動力分散方式(≒新幹線のシステム)を採用したんでしょ? そこがわかってないの?

何を勘違いしたかは分かる。「TGVのシステム」と聞いて鉄道システム全体のことだと……線路設備とか、信号をはじめとする運行管理システムとかまでひっくるめた話だと思ったんだろう。それもあながち間違いではない(と思う。あえてウラは取らない)。でもさあ、普通の思考力があったら、それらがどうして地形の起伏と関係あるんだ? と疑問に思うだろ。バカじゃなかろうか。

もうひとつわけが分からないのが、肝心かなめの最高速度の話。2ページ目に「平均速度は219キロにとどまった」「高速運転に耐え得る専用線路ではなく、通常の線路で試験走行を実施したことが原因のようだ」と書いてあるけど、え? 1ページ目には「すでに試験走行で時速421キロの最高速度を達成している」と書いてるんだけど……。

つまり時速450キロを目指すのは専用新線を建設した上での話で(だからこそ「6700億ウォン(約737億円)が必要」という具体的な試算がある)、それはそれとして在来線での車両の運用を想定した試験走行も行っただけ。そもそも「平均速度は219キロにとどまった」って、まるで期待外れのように書いているけど、当事者の目標はハナっからその程度だろ。「原因のようだ」って、当事者はそんなこと走らせる前から十分わかっているんだから。

いやもう、これほど大バカさらしたみっともない記事も珍しい。一説には、産経新聞の「嫌韓施策」がマトモな思考を拒んだとも伝えられる。だとしたら、自業自得というほかない。