石ノ森章太郎も使っていた「コミカライズ」

以前、私は

コミカライズという言葉は出自がはっきりしていて、1997年の『まんが秘宝 ぶっちぎりヒーロー道』(洋泉社)において編集部名義でゴリオリバー岩佐(岩佐陽一)氏が提唱したものである。
(2011年7月4日付)

なんて書いてましたが、すみません、これ間違いでした。「巻頭でこうした解説が必要な程度には知られてない言葉だった」というのはそうなんですが、『ぶっちぎりヒーロー道』から遡ること10年、『石ノ森章太郎のマンガ家入門』にも書かれていました。

テレビで放映されている作品を、雑誌にマンガとしてかく。それがテレビマンガです。
雑誌マンガを原作にして、それをテレビ化するケースは、そう呼びません。あくまでもテレビ作品を原作にして、それをコミカライズ(マンガ化)したモノだけです。
 
(『石ノ森章太郎のマンガ家入門』 p200)

てな具合で、カッコ書きで「マンガ化」という意味を補ってはいますが、特に「俺が考えた言葉」とかいう説明も無しに、さりげなく「コミカライズ」と言っています。ノベルにするのがノベライズならコミックにするのはコミカライズ、というのは割と普通の発想ですから、ゴリオリバー岩佐氏は『マンガ家入門』を知らずに言い出したと考えられますが、ともあれ石ノ森章太郎も使っていた。しかしその時既に全くの新語というわけでもなかったらしい。はてさて一体、最初に言い出したのは誰なのかしら?

とまぁ私の関心は重箱の隅に行ってしまうわけですが、それはさておきこの本、今読んでもふつうに面白いです。ギャグマンガのテクニック解説のほうは古さを感じてしまうのですが(基礎としてはこれでいいんだろうけどね)、ストーリーマンガの解説のほうは「なるほどこういうことを考えて描いているのか」と、自分で描く気はなくとも読者としての意識が変わるレベル。マンガの読み方が変わるといっても大げさではありません。

また、ノウハウ集であると同時に自伝の要素も多分にありまして、特に「あとがき」として書かれているQ&Aには、あれほどの売れっ子であっても(売れっ子だからこそかもしれないが)、多くの読者に受け入れてもらうために自分の世界を破壊していく苦痛を味わっていたのか……と思い知らされます。
 
ついでにもうひとつ、コミケと同人誌への言及があるので引用しておきましょう。えー、改めて書きますが1987年、今から27年前の状況です。

パロディマンガ
これは"解説"の必要が無いかも知れません。何故なら、版権とか肖像権とかがキビシク管理されるようになって、商業誌への発表が殆どムリ、という状況だからです。
自分の好きな(あるいは嫌いな)テレビマンガや雑誌マンガのキャラクターを使って、ディフォルメして茶化したり、マジに自分のマンガにしたり、というのがこのジャンルだからです。
コミケットと称される、同人誌の交換会や即売会が盛況のようですが、この同人誌に掲載されている"作品"の大半が、このパロディマンガです。同時に――。
プロにはなりたくない。マンガは趣味。同人誌に発表するだけで満足。という、プロ並みの同人誌作家も多勢いる、と聞きます。
自分だけ、自分たちだけで楽しむ、これもひとつの、マンガ世代の、マンガの楽しみ方なのでしょう。
 
(『石ノ森章太郎のマンガ家入門』 p204)