謎の電氣自動車

『東京電燈株式會社開業五十年史』(昭和11年/1936年)、「廣汎なる電氣の用途」という見開きの記事に載っていた小さな写真(東京電燈は東京電力の前身です、念のため)。

「電氣自動車」なのだという。1936年というのが、チト微妙である。燃料統制が厳しい戦中・戦後には、それこそたま電気自動車のように電気自動車の開発・研究が活発だったが、それより前となると空白の時代だ。これは狭義の電気自動車ではなく、トロリーバスだと推察される。
ところが、そこから先がわからないのだ。
昭和11(1936)年までに日本で開業したトロリーバスは、2路線しかない。ひとつは日本初のトロリーバス、昭和2(1927)年に開業し、昭和7(1932)年に廃止となった「日本無軌道電車」。もうひとつはその昭和7(1932)年に開業した「京都市電無軌条線」である。
両方とも、使用車両の姿がウェブ上で確認できるのだが……。

宝塚市ふじガ丘自治会サイト「満願の里」中の「無軌道電車」
http://fujigaoka.biz/f830.htm

京都市サイト、交通局が設けている「市電保存館 on WWW」
http://www.city.kyoto.lg.jp/kotsu/page/0000006824.html
ウィキペディアの「京都市電無軌条線」の項にも画像がある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/file:Kyoto_Trolley_bus.JPG

いずれも、東京電燈の言う電気自動車とは全くデザインが異なるのである。日本無軌道電車はその名のとおり、バスというより道路を走る電車といった風情。京都市トロリーバスは東京電燈のそれと比べて新しめで、前後にドアがあって大振りだ。

いや、京都市トロリーバスが大振りというか、東京電燈のそれが小振りと言うべきか。フロントウインドウが1枚(しかも開放されている)、側面窓が4枚しか無い。定員は20名以上ではあろうが、多くても30名に届かないくらいだろう。となると、都市内交通としては輸送力不足と懸念されるから、観光路線だと考えられるが、それに該当する路線が無いのである。
海外の車両かとも疑ったが、ドアが左側に付いているから、左側通行の国のバスだ。やはり日本車か……ひょっとしてイギリス車?



などと書いた後に、「これでわかれば苦労は無いよな」と「YKN 電気自動車」でググッたらあっさり正体が判明。

電池メーカー「YUASAの歴史」、1930年に「国産初の電気バス(YKN型)に蓄電池を提供」とあった。それ以上のことは不明だが、たぶんYはユアサ、Nはナカシマの頭文字。

(↓つづく)