large shipを誰が巨艦と訳したか

昨日に引き続き(2012年3月15日付)「巨艦」の話題の続き。
日経ビジネスオンライン2007年10月4日付、「クラフトは輝きを取り戻すか」には以下の一節がある。

BusinessWeek 2007年10月4日
クラフトは輝きを取り戻すか

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071003/136731/
 
「3カ年計画の6カ月目を迎えたばかりで、まだ道半ば。我々が直面している課題から目を背けるつもりは全くない。この船は(小回りの利かない)巨艦なのだ」(ローゼンフェルド氏)。

これは"BusinessWeek"記事の翻訳で、記事冒頭に「米国時間2007年9月25日更新、「Kraft at Work Burnishing Its Brands」」と元の記事へのリンクが貼ってある。
「巨艦」が出てくる部分の原文を追ってみた。

"The facts are we're six months into a three-year plan. I don't mean to diminish in any way the challenges in front of us. This is a very large ship."

原文はこのとおりで、"This is a very large ship"が「この船は(小回りの利かない)巨艦なのだ」と翻訳されているのだ。
large shipはもちろん largeなship なのだが large ship でもWeblio辞書に載っていて、「大型船; 大船; 巨大船」「舶」の意味としている。
一方で「艦」の意味はというと「戦争用の船。軍艦」。「巨艦」の意味は「非常に大きな軍艦」だ。
shipには艦船の別が無いから、 large shipを巨艦と翻訳しても間違いではないのだが、なぜ「艦=戦争用の船」なのか? 「巨大な船」「巨船」ではいけない理由は無いだろう。この記事に関していえば、なかなか舵が切れないというニュアンスなのだから。

1・巨大企業を巨艦と喩えるのは昔からあった。"large ship"の訳語としてもピッタリだった
2・この時期、海外のビジネス関係の記事に"large ship"が登場するようになり、その訳語として誰かが何となく「巨艦」を使ったら普及した
3・"large ship"は元来軍事用語であり、ずっと前から巨艦と訳されていた

考えられる可能性はこの3つか。つまるところ「「巨艦」が先か"large ship"が先なのか?」で、1は無関係にそれぞれあった、2は"large ship"の訳語に「巨艦」を選んだ、3も「巨艦」は訳語という説だがルーツは古い……という差がある。
私としては2の可能性が最も高いと思うのだが、1994年に『生協 動き始めた巨艦』という本があったことから考えると、1や3の可能性も捨てきれない。