最悪なのは翻訳…『図説 世界の「最悪」航空機大全』

図説世界の「最悪」航空機大全

図説世界の「最悪」航空機大全

タイトルから想像されるとおりの本。『奇想天外兵器』シリーズや『世界の駄っ作機』の類書ですが、洋書の翻訳(原著者はロンドン在住とのこと)という目新しさで購入した。
まず誉めておくと、航空機史に燦然と名を輝かすような機体についても、そのネガティブな要素にスポットを当てて取り上げているのが目新しい。リアル空飛ぶ円盤なアブロカーとか、リアルたまごひこーきな容姿のゴブリンとか、リアルスピットファイター(もしかして: スピットファイヤー ←違います)なコレオプテールとか、リアルEI-25なシーダートとか、ひと目見て明らかにヘンな飛行機も当然登場しますが、こいつらにはもういいかげん食傷ぎみだしね。
んで、そういう珍機たちと同列で、XB-70バルキリーとか、YF-102デルタ・ダガーとか、あまつさえベルX-1(!)まで扱ってるのよ。
普通なら、たとえばバルキリーなら「政治に翻弄され、またICBMの時代には無用と判断されたが」といいつつも、「当時の航空機技術の最先端を行く機体であった」とか「マッハ3級の爆撃機は未だこれのみである」とか、美点のほうを強調するじゃないの。それがこの本、翻訳が下手なせいもあって「かかった開発コストは、機体と同じ重さの金に匹敵する」とか、そっちのほうに重点を置いている。
となればデルタダガーの扱いも大方予想が付くかと思いますが、エリアルールの発見よりもそれ以後の「量産計画の見直しを迫られてたいへんな経費がかかった」とか、そっちを強調しています。
史上初の超音速機という栄光を背負ったX-1すら、この本にかかっては「火災事故にもてあそばれた実験機」扱い。いや、そりゃもちろんそのとおりなんだけどさ……。この、視点の逆転がなんだか面白かった。
また、駄目なりに量産されてしまった機体(F7UカットラスとかF3Hデーモンとかフォージャーとかバイパーゼロwwwとか)や、計画だけで消えた機体(A-12アヴェンジャーIIとかRAH-66コマンチとかSSTボーイング2707とか)もカバーしており、顔ぶれのバラエティという点でもなかなか楽しめる一冊です。



ですが。まぁ、正直これは人には勧められない。タイトルにもしましたが、とにかく翻訳がひどすぎる。日本語の文章としてこなれていない。原文にはどうも語呂合わせが多いようなんですが、そこらへんも直訳調だからガチガチにぎこちない文章になっている。また、本文やキャプションにときおり親切ごかしで「訳注」が入るけど、文芸作品や論文じゃないんだから、そんなの文章に溶け込ませる形で翻訳しろと。
そのくせ、また余計なことをするんだこの訳者。p13のキャプション「XPBB-1の翼はB-29スーパーフォートレス(超空の要塞)をもとにしていた」って、カッコ内不要ですから。何考えて付け加えたんだか、理解できない。
さらにひどいのが章タイトル。飛行機を扱った本で「『空気』が読めなかった」と言われたら、空気力学の理解が足りなかった故の失敗かと思うのが普通でしょう。ところがこれ、原題は「BAD TIMING」。1942年生まれの訳者ががんばって若者言葉を使ってみたみたいだけど、いいよそのまま「タイミングが悪かった」で。つか飛行機を扱う本で、別の意味での「空気」を見出しに使うセンスが信じらんない。
「BOGUS CONCEPTS」が「アイディアだけがたより」ってのも意味が違っているし、本文は直訳調でグダグダ、逆に直訳すべき章タイトルは外しちゃってるセンスで意訳している。ともかくこの松崎豊一って名前はブラックリストに入れておきますわ。