VTOと呼ばれていたVTOL

2010年4月27日付「「ウルトラマン」のジェットビートル」に関連した話題。「VTOLの読みは『ビトール』か『ブイトール』か?」という謎を、ちょっとだけ深堀りしてみました。
週刊朝日』1954年5月23日号、「コンヴェアXFV-1に関する試験がスクープされた」との記事ではこう書かれています。

垂直上昇飛行機 VTOの正体

これが、かねてアメリカ海軍が十年の心血を注いでいると伝えられた極秘の新兵器、VTOの正体であること、これに関連してロッキードとヴァルティー(=コンソリデーテッド・ヴァルティー=コンヴェア)の二社が、最近試作機の製作に成功し、ロッキードでは既に飛行試験さえ行われた……ということであった。
VTOとは「垂直離陸」(ヴァーティカル・テイク・オフ)の意味で、海軍ではコンヴェア製作の時には「ポゴ・スティック」(一本脚の竹馬)というあだ名をつけているが、カメラマンが捕えた像は、実はこれに使用する動力を、試験台にのせてテストしているところだった。

この当時はどうやらVTOLではなく、VTOだったらしい。となると「L=landing=着陸はどうだったのよ?」と気になるところですが、そこは小見出しに「着陸も垂直」とあるとおり。

任務が終るとまた垂直の姿勢に帰って、静かに四つの車輪で逆立ちのまま着陸する。

と、本文には書かれています。だったらLを付けても良さそうなものですが……。
翌1955年の『科学朝日』3月号では、あの堀越二郎が「直昇航空機の背景」を執筆。……直昇航空機? はい、これがこの記事でのVTO Aircraft の訳語です。
グラビアページには、コンヴェアXFV-1の飛行成功を伝える記事を掲載。

世界の航空史上、一つの画期的な飛行が、成功のうちに昨年11月4日、ブラウン海軍補助航空基地で行われた。昨年来、世界航空界の注視を集めていた米海軍用の試作垂直上昇機2種のうち、コンヴェィア会社製のXFY-1型が、官民専門家および報道関係者の目前で、垂直に上昇し、水平姿勢に移って飛行し、再び垂直姿勢で着陸するという異様な飛行ぶりを初めて公開したのである。

というわけで、垂直着陸もこなしているのですが、こちらでもやはり「Vertical Take-off=VTO」、あるいは「Vertical Take-off Aircraft」と書かれ、L=landing=着陸は無し。日本語表記のほうは「垂直離昇航空機」「直昇航空機」「垂直上昇機」が混在しています。ひとつ面白いのはVTO機の例としてナッターの名が出てくること。なるほど、あれはVTOLではなくVTOだ。

ともあれ、コンベアXFY1ポゴが飛んだ当時はVTOLはVTOと呼ばれていた模様。それが10年後の雑誌記事ではVTOLとなっています。

朝日ジャーナル』1965年7月4日号掲載、「技術は突破する」シリーズの第13回「飛行場を節約する …垂直・短距離離着陸機の実用化」という記事、執筆は山名正夫。

速く飛んで、しかも鳥とおなじく垂直にも離陸しようというのが、垂直離着陸機(VTOL,VERTICAL TAKE OFF AND LANDING AIRCRAFT)である。

というわけで、この10年の間に微妙に呼称が変わったのでした。私がこの言葉を追い始めたスタート地点である『ウルトラマン』(ブイトール=ビートルが登場する)は1966年の作品です。
変わったのは呼称だけでなく飛行機の評価もでして、コンベアXFY1はこちらの記事ではもう……。

コンベアXFY1は、1954年に遷移飛行(TRANSITION FLIGHT 垂直と水平飛行の移りかわり)に成功した。これはヘリコプタ以外にはじめて垂直離着陸をおこなった歴史的な機体である。この型は、機体の前後軸を鉛直にして地上に静止するので、テールシッター型と呼ばれ、操縦が困難なうえに、人の輸送にも適さないので、すでに研究の対象から除かれた。

既に要らない子扱いです。ていうか、そんなことの飛ばしてみるまでもなく分かりそうなのに、アメリカ海軍と航空メーカー各社は何をやってたんでしょうか。
というわけで、「VTOLは古くはVTOと呼ばれていた」ということはわかったのですが、肝心の振り仮名は振られておらず、「『ビトール』か『ブイトール』か」は謎のままでした。
推測としては、1962年からSTOL実験機「飛鳥」の開発が始まったことでSTOL(エストール)が広く一般にも知られるようになり、その「エストール」に対してVTOLは「ブイトール」と読まれるようになった、と思えるのですが……。