床屋もパン屋も放送禁止

今朝の通勤時、朝のバラエティ番組『スッキリ!!』を見ていてオヤと思う。9時20分頃に放送していた小特集のタイトルが「密着!スパルタ床屋塾」だったのです。
あれあれ? 従来「床屋」は放送禁止用語、いつの間にOKになったんでしょ? これが例のアレか? 逮捕者が出て話題になっている自主規制の緩和、「薄消し新基準!」てヤツ?
などとひとしきりボカシた、もといボケたところで本題の続き。そもそも何故に「床屋」が放送禁止用語なのかというと、実はよくわかりません。「昔、床屋では売春をしていたから」という説明があって、マァそういうことだろうと思っていたのですが、このエントリを書くにあたってちょろっとググってみたところ、どうもそういう歴史は出てこない。
「床屋 売春」でググると確かに売春宿を指す用例があるのですが、それは中国や韓国でのこと。果たして日本にも同様の床屋はあったのだろうか、と疑問に思います(ていうか、まず一般に目に付くレベルではそういう用例は出てこない)。
そうした薄弱な根拠に基づく自主規制だから、あるときフイと撤回されることもあるでしょう。しかし、そのときにはやはり「何故規制を緩和したのか」「何故これまで放送禁止用語だったのか」を詳らかにする責任が、TV局にはあるのではないでしょうか。
 
「根拠? 歴史的背景など関係無い、床屋は理容師を見下した呼び方だからだ! 職業差別だからだ!」なんて声も、過去にはどうやらあったようです。TV局はアツモノナマス状態となって、放送禁止用語の範囲は実に幅広いものとなりました。
3年ほど前、CS局スーパーチャンネル (現スーパードラマTV)で往年の海外TVドラマ『プリズナーNo.6』を観ていたときのこと。暗号(に見せかけた言葉)として、こんなフレーズがありました。
「パン焼けパン焼け○○○の親父」
○○○部分は音声が消されていました。さて、ここで問題です。本来○○○に入る言葉は何だったのでしょう? 
……って、エントリのタイトルでばらしてますが、答は「パン屋」。これは何がNGかというと「パン屋という呼び捨てが差別的だから」だそうです。いやマジで。だから、この差別用語とされた「パン屋」の言い換え語は「パン屋さん」 (笑)。70年代後半か80年代ならまだしも、21世紀を迎えてから、それもCS局の番組でこんなバカバカしい修正に出くわすとは思いませんでしたよ。
 
「○○屋」が職業差別だ、という例で面白いのが『鉄道員』。浅田次郎の原作は1995年発表、97年単行本化、99年には映画にもなりましたが、管見の限り「『ぽっぽや』という呼び名は職業差別である」という指摘はありませんでした。
「ぽっぽや」って普通に想像力を働かせれば、かなり差別的だと理解できますよね。機関士という専門職、その道のプロを「汽車ポッポ」なんて幼児語から派生した言葉で呼ぶのだから小馬鹿にした話です。実際、「ポッポー屋」は放送禁止用語にリストアップされています。
にも関わらず、小説のタイトルになり、本のタイトルになり、映画のタイトルにさえなり、しかも誰も問題として指摘しなかった。これはまぁ言ってしまえば、「汽車ポッポ」の死語化や、鉄道員を取り巻く社会的環境の変化によって「ポッポー屋」「ぽっぽや」の差別性も忘れられたってだけなんですが。
 
「ぽっぽや」の例を見ると「差別には時代とともに形骸化するものもある」と理解されます。だから過去の業態がどうであれ、現代ではイコール理容師以外の意味の無い「床屋」は、確かに差別用語では無いのだ、といえるでしょう。