松山基範について

「地球磁場の逆転」と字面だけみると、あたかも地球の破滅につながる天変地異のようですが……ていうか実際、これを聞きかじった与太さんが「てえへんだ、北極と南極がひっくりかえっちまうってよ!」と言い出したのが疑似科学の「ポールシフト」の原点なんでしょうな。
しかし、疑似科学でもオカルトでもなく、これまでに何度も地球磁場が逆転していることはあまり知られていないのではないでしょうか。そして、その地球磁場逆転説を世界で初めて提唱したのは日本人だという事実も。
私も知りませんでした。
その人の名は松山基範。同時代の科学者、例えば田中舘愛橘と比べると一般の知名度はなかなか低いようですが、プレートテクトニクス理論の発展を支えた科学者として地球科学の分野では国際的に知られた人物で、その分野の専門用語にまで「松山逆磁極期」と名前を残しています。
今年2008年は没後50年、地元で顕彰会が設立されるとのニュースも聞かれました。

【下関の清末地区 松山基範氏の顕彰会設立へ】
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2008/0105/news3.html
山口新聞2008年1月5日(土)掲載
少年期を下関市の清末地区で過ごした世界的地球科学者、松山基範(1884−1958年)の顕彰会が12日、没後50年を機に地元に設立される。基範はノーベル賞受賞者湯川秀樹朝永振一郎福井謙一らとともに、丸善発行の『世界科学者人名辞典』に紹介されている日本人科学者19人のうちの1人。山口大学初代学長としても知られ、「松山基範先生を顕彰する会」(仮称)の発起人、肥塚挺司さん(70)は「地元の人に松山先生のことをもっと知ってほしい」と話している。

3月20日には没後50年の法要をし、清末公民館で基範の孫の松山讓二氏、孫弟子で『日も行く末ぞ久しき 地球科学者松山基範の物語』著者の前中一晃氏を招いて講演会を開く計画。問い合わせは同会事務局の高林寺(?0832・83・1349)へ。

では、松山基範について詳しく知りたいと思ってみると……。

日も行く末ぞ久しき―地球科学者松山基範の物語

日も行く末ぞ久しき―地球科学者松山基範の物語

この一冊だけ。開いてみると、幼少期とか学生時代とか割とどうでもいいトピックから語り起こしたりと、幾分退屈に感じる部分もありますが、重力測定・地磁気測定の描写などからは大正〜昭和初期の研究の模様がよくわかり、興味深く読めるものです。
なかでも面白いのはやはり「松山基範と地球磁場の逆転」の章。その説の提唱にいたる過程に関しては、基範自身の著述を長く引用しており、これはまさに基範の生の声。地の文では当時の計測機器(無定位磁力計)の解説なども細かく書かれ、基範の非凡さを一際明確に知らせてくれます。
「基範の歴史的発見もその当時には全く受け入れられなかった」(実際、1960年代に「再発見」されるまでその発見は埋もれていた)「松山は、転がって百八十度逆立ちした岩石を拾ってきたのだろう、という人も多かった」などといった、「悲劇のドラマ」というべき要素にもちょっとした読み応えがありました。
まぁ、決して万人に薦められるような本ではありませんが、「知られざる偉人」というか、「業績と知名度とが釣り合ってない地球科学者」松山基範にわずかなりとも興味を持ったなら、入手しておいて損はない本といえるでしょう。つか、他に選択の余地無し(苦笑)。