アメーバ人間

「夏休みのエスパー」「暦町キンダーガール」に続く、文芸社協力出版本レビュー第3弾。

アメーバ人間

アメーバ人間

rakuten:book:12074051

世界でも類を見ないテロ事件がアメリカで勃発。若き銀行マン岩渕栄悟はその崩落したビルの一室の瓦礫の下に閉じ込められてしまう。やがて栄悟は、水分がすっかり抜けた干物のような死体となって発見された。検死を終え、日本の自宅で通夜が営まれた夜、遺体が忽然と消えてしまう。数日後、生者として戻ってきた栄悟に家族は驚き喜ぶが、その身体には重大な変異が起こっていたのだった……。生命の危機に及んで発動した細胞の突然変異により「アメーバ人間」となった男の苦悩と活躍を描いた作品。
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-03126-2.jsp

てな作品紹介で大方推し量れると思いますが、古色蒼z…ゲフンゲフン、古式ゆかしい変身人間譚のSFです。全身が変化するわけではなく、「水分がすっかり抜けた干物のような」仮死状態の体を残して、アメーバ状の体が抜け出してくる、というスタイル。アメーバのほうはわずかな隙間から出入りできるし、その姿のまま文字を書いたりなんだりも可能といった設定です。
作品紹介はなぜか「世界でも類を見ないテロ事件」とぼかしていますが、本編ではバッチリ9.11。アルカイダを憎むべき敵とみなした主人公は単身イラクに乗り込み、ホテルのベッドにヒトの体を残してアメーバ人間としてビンラディンの隠れ家に忍び込み、恐るべき復讐を実行するのです……と、ここまでが第一章。
突然変異のきっかけが何故か飲尿だったり、ビンラディンザワヒリの会話が田舎のおっさんみたいだったり、しかも非常に説明くさかったり(唐突に今までの活動の歴史を振り返ったりする)、主人公はその気になればビン・ラディン暗殺だってできたのに活動資金を奪って警告を残すだけで復讐はおしまいだったりと、まぁツッコミどころは満載。基本はトンデモ本として読むべきムードなのですが、第二章からがちょっと凄い。
第二章では岩渕栄悟の日本での日常生活が描かれます。アメーバ人間はその驚異の生命力により、他人の壊死した細胞の復元もできる、という設定。その能力を使い、義父の病院に運び込まれる重傷者を救い続けるのでした……って、アルカイダがストーリーの核だったのに、そこは放ったらかしですか!?
そう、アルカイダの件は中途半端な復讐だけで棚上げ(奪った金は慈善団体に寄付)。ストーリーの核は「重傷者は助けたいが、その奇跡の治癒能力はマスコミの注目を集めてしまう。いつかアメーバ人間であることが知られるかもしれない…」とのジレンマに変わります (つか、隠す必要あるのか?)。
ある意味予測不能な展開に振り回されつつ読み進めると、「仮死状態の体を残してアメーバ状の体が抜け出る」との基本設定が、後になって予想外の形できっちり活きてきます。
なんというか、ここの設定の転がし方にセンス・オブ・ワンダーを感じてしまったのですよ。「うわ、そうきたか! この設定をこう使うか!」と。科学考証としてはデタラメなんですが、「アメーバ状の体が抜け出る」「その際、本来の体は仮死状態で残される」という基本設定に、「その能力は遺伝する」とのアイデアが加わったとき、結果あんなことが起こるというのは、こう、実にSF的なイマジネーション&説得力を備えているのですね。
ま、これもワンアイデアで終わってしまい、直球にして間の抜けた対処法で解決されてしまうあたりは腰砕けなんですが……。この一発使い捨てのビックリだけでも高く買いたいと思います。