『創』の記事に思う「デスノート」盗作騒動

雑誌『創』3月号(創出版)購入。とりあえずここで話題にしたい記事は「「デスノート」めぐる二つの盗作騒動」(青井輪廻)……なんだけど、はっきりいって期待はずれだった。関係者の証言などひととおりの取材はしているが、ただ単に事の経緯をまとめただけで、これならどこかのまとめサイトを見れば充分だ。
そもそも立脚点が素人サイトやブログや掲示板(以下「ネットの巷」)と同レベルで、専門誌らしい視点や掘り下げは何もない。『サイゾー』ならまだしも『創』でこれはないだろう(サイゾーを貶めるつもりはない、念のため)。
まずはリードがいきなり噴飯もの。

それにしてもこんな有名なマンガをパクるとは、どうして!?

おいおいおいおい、有名な作品だからこそ二番煎じが世に出るんだろ。まぁ「メガバカ」のトレース騒動を含めているからこういう書き方なんだろうけど、「ロストブレイン」にしても、あの程度に臆面の無い、そしてあの程度にしかヒット作との共通点の無いフォロアーなんて過去にいくらでも例がある。

これだけ物語の根幹を成す設定部分が酷似してしまっていては"盗作"の謗りを免れることはできないのではないでしょうか。

などと匿名の「コミック編集者」に言わせているが(笑)、そんな認識しかもてないコミック編集者のほうがよほど不勉強だ。つか、マガジンやチャンピオンで似たようなのが始まれば(その可能性は低いものではない)「デスノ系」という新ジャンルが成立し、「ロストブレイン」はそのひとつでしかなくなるだろう。

作品掲載が事件なのではない。ネットの巷の異様なハシャギようこそが事件なのだ。その「ネット世論」の精神、そして精神の伝染……影響力をこそ観察・分析の対象とすべきではないか? 「旧来のマスメディアが力を失う一方で、ネットメディアによる世論の形成が無視できなくなっている」とかいう、いかにもソレっぽいテーマにも展開できそうだがねぇ。

メガバカ」に関しては、現代となってはもう「トレースですが何か?」というか「人物のトレースの何が問題か」の議論を期待したいところ。

メガバカ」を擁護するつもりは微塵もないけど、軍艦の写真を元にして、その軍艦の軍艦たるを軍艦としてそっくり描き写し、まず著作者自身から抗議を受けた「沈黙の艦隊」事件とは事件の質が違うでしょ、と。「では、その質の違いとは何なのか?」を掘り下げるべき段階まできているのではないか。

なのにネットの巷も『創』の記事も、著作権の侵害」ではなくただ「明らかな手抜き」に過剰反応しているとしかみえない。「考えるまでも無く悪いこと」と思考停止し、「だから安心して叩く」ほうへと走ってしまう。そんな鈴虫並のリンリはネットの巷に任せておいて、曲がりなりにも専門誌であるはずの『創』ならば「どのラインを踏み越えると著作権の侵害になるのか」を問うべきだと思うんだがな。

裁判官レベルでは(その裁判官の認識がアレとかいうのも考慮すると)「ポーズやアングルが酷似している」ことを以って盗作だとは認定しないだろう。だけどそれでも倫理的にはやはり問題があるようだ。では、その問題とは何なのだろう? ……トレース騒動が後を絶たないのに、未だこうした議論の深まりがないのが不思議でならない(もちろん私のアンテナが低いから引っかかってこないだけとも思うけど)。「沈黙の艦隊」事件だって、「模写したのは軍艦というモノなのか写真なのか」という問題を内包していたのだし(それは主要な争点にはならなかったが)、その問いには充分な意義があるだろう。

まぁこれは、『創』までもが伝染するネット世論の影響力、という一段高いレベルから見ると興味深い事態ではあるのだけどね。(という記事をブログで公開する入子構造も含めて)



ていうか、ポッと出の新人が、超有名な週刊マンガ誌上に載っている、作品自体も割とよく知られた、アニメも案外続いているような連載のなかでだ。ずっと第一線で10数年にもわたって月刊連載を続けている大ベテランの、だけど掲載誌は成人漫画誌ゆえにマイナーで、単行本もろくに出ていないマンガのネタを盗用した、と。こっちのほうが倫理的にはよほど問題だと思うのだが……あれにはこれという決着はつかなかったんだろうか? 

「本当に盗用だったか否か」の認定は別として、盗用された側の作家は怒りを隠してなかったし、対して盗用した側は詫びるどころか「ナニ騒いでんの?」的な不遜な態度を隠さなかったから、どうなることかとワクワク…いやいや心配していたのだが。