蒸発以前のウルトラQ「あけてくれ!」

以前、行方不明の意味の「蒸発」を取り上げた際に、「『ウルトラQ』の「あけてくれ!」は蒸発事件を題材にしているが、「蒸発」という言葉は出てこなかったのでは?」とボンヤリと書いていました。
http://d.hatena.ne.jp/UnKnown/20130220
この件、昨日のMX2での放映で確認しました。

結論から言うと、劇中では一度も「蒸発」とは言っていません。

「あけてくれ!」の回は本放送(1966年)では放映されませんでしたが、制作順では第4話。1964年の11月には撮影を終えていたようです。
http://ultraq.jp/working_material.html
http://ultraq.jp/story_28.html
以前、大宅文庫でざっくりと探ってみたところ、「蒸発」を取り上げた記事が増え始めるのは1965年から。つまり、1964年の時点で既に社会問題となりつつあったものの、半面その頃にはまだ「蒸発」という言葉は普及していなかったのです。
それが1967年になると、雑誌には「蒸発という新種の事件」という題の記事が載り(掲載誌等の詳細は失念)、6月には今村昌平の映画『人間蒸発』が公開。

人間蒸発 [DVD]

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この時期になって、「蒸発」という社会問題・社会現象が広く認知されるようになったと言えるでしょう。そしてその年の12月14日、「あけてくれ!」が再放送の第24話として初めて世に出る。
微妙に、ごく微妙に、1年か半年くらい「早過ぎた」エピソードだったのが、一度放映を見送ったためにドンピシャなタイミングで世に出た、と捉えるとちょっと面白い。

ついでに、「蒸発」という言葉の普及が感じられる『ウルトラセブン』第34話「蒸発都市」は1968年5月放映、劇中でもはっきり「蒸発」と言っている蒸発人間の話『怪奇大作戦』第13話「氷の死刑台」は同年12月放映です。

ところで、「あけてくれ!」では「蒸発」「人間蒸発」とは言わなかったのなら、その現象(事件)をどう表現したか? 天本英世演じるSF作家は「(非現実の世界への)逃避」、そして一の谷博士は「人間喪失」と言っていました。これはこれで適当な表現ですが、「人間性喪失」と紛らわしいですね(それとも、そういう意味にも取れるようにした? あるいは「人間消失」かもしれませんが何度か聞き直してもやはり「喪失」としか聞こえませんでした)。

さてこうなると私の中でうずき出すのが、いつもの最初に言い出したのは誰なのかしら?病。一体誰が最初に「蒸発」という言葉を使って、この社会問題を表現したのか? そして何が人口に膾炙するきっかけだったのか? 時期はほぼ1965年と絞り込めているのですが、ううむ、ここからが骨だなぁ。
 
ついでに書いておくと、「あけてくれ!」と設定が類似しており、影響を与えた可能性が指摘されている"The Twilight Zone"の"A Stop at Willoughby"は1960年放映とのこと。さすがにアメリカの文化史や社会問題までは追いきれません。