暦町キンダーガール

暦町キンダーガール

暦町キンダーガール

おしゃまな幼稚園児・百瀬やよいは、夫に先立たれた母親の雛子と二人暮らし。父親不在でも前向きで明るい二人はどこへ行っても人気者。そんなやよいの悩みは、大好きな男の子が振り向いてくれないこと。一方、母・雛子には、二人の好青年が思いを寄せ、恋の火花を散らすのだが……。前向きで明るく生きる母娘の日常と、それを見守る人達とのふれあいをユーモラスに描くホームコメディ小説。
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-02826-2.jsp

まぁ、あれですね。タイトルとか「おしゃまな(死語)幼稚園児」とかいう作品解説から想像できるとおり、元々の狙いは『クレヨンしんちゃん』的な「ませた幼稚園児が大人たちを翻弄する」というコメディのようです。
ただ実際に読んでみると、この種のコメディの肝であるはずの「ああ、幼児の視点や理解って、そっちを向いちゃうんだ」「幼児の行動って予想がつかないな」という面白みは希薄。主人公のやよいは「ませている」というレベルを超えているんですね。まぁそもそも、やよいには活躍という活躍が無いのですが。
いやいや、「だから駄作だ」なんて評価するくらいなら、改めて取り上げたりはしません。主人公の造形に問題がある一方で、本来なら副主人公格のはずの母親、雛子が妙にイキイキと描かれている。この作品の真価はそこにあるのです。
つか、作者のほうも、雛子を中心としたラブコメを描いているときのほうが明らかにノッている(笑)。やよいに対して時に厳しく、時に優しい母性を見せるのは当然として、想いを寄せる男2人に対しても母親的というかお姉さん的というか、優しく(時に厳しく)親身に接するのがポイント。「女手ひとつで幼稚園児を育てている」との設定が、ラブコメ上のキャラ造形としても実に巧く使われているんですね。
で、男2人に対してはソフト目なツン……というかそもそも恋愛の対象として見てない雛子ですが、亡き夫の幻との再会を果たす場面ではデレまくりです。ここらへんのメリハリもなかなか巧みな感じ。この場面、桜の木の下という舞台装置の効果もあって、作品中最も印象的な「画」になっています。
てなわけで、タイトルからは想像しがたいのですが、「ママ萌え」とか「ツンデレ未亡人ハァハァ」な人には一読をおすすめしたい逸品です(……そういう人は相当な少数派のような気もしますが)。あ、やよいに翻弄される若き保育士さんの、微妙に幸薄い雰囲気も、それがツボに入る人は少なからずいそう。幼稚園児いらないんじゃないか、この作品?