言葉狩りが生む差別

先日『熱血!!コロコロ伝説』が創刊されたことで、フト「そういや愛蔵版が出てたっけ」と思い出した『名たんていカゲマン』を購入した。
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感想はさておいて(読んだことの無い人には薦められたモノじゃないし、かつてのファンは私の感想がどうだろうと買う/買っているだろうし)、ちょっとシリアス目な話題をひとつ。
「怪人19面相登場」の回にこんな場面がある。

小学館てんとう虫コミックスライブラリー 名たんていカゲマン1』p79-80)
コマ割が変則的なのは、雑誌掲載時には広告が入っていたページ左端に、単行本化に際して縦長のひとコマを加えたため。
1コマ目
シャドーマン「あっ、すいません。」
2コマ目
シャドーマン「ここにあやしい男がきませんでしたか?」
3コマ目
通行人「怪人19面相ならあっちへ行ったよ。」
シャドーマン「ありがとう。」
4コマ目
カゲマン「19面相を知らないのに、あやしいぞ。」
シャドーマン「すると怪人19面相が変装してたのか。」
シチュエーションは児童マンガによくある、すんなりと呑み込めるものだ。だが、どうにも絵が引っかかる。何故「黒い眼鏡をかけて、白杖を突き、白衣風の服を着た人」なのだろう?
……いや、何故と問うまでもあるまい。この部分、台詞が変更されているのだ。
お盆休みで実家に帰ったついでに、元の『てんとう虫コミックス 名たんていカゲマン』を開いて台詞を確認した。案の定というべきか、1コマ目の台詞は「あっ、あんまさん。」、4コマ目の台詞は「目が見えないのに、あやしいぞ。」だった。
さて、一体この台詞の何が問題なのだろう? 「あんまさん」の語が差別的? とんでもない、「あんまさん」は逆に、言い換え語なのだ。「あんま」と呼び捨てにする、見下した言い方は止めて「あんまさん」と言い換えましょう、というガイドラインがあるのである(これも大概だが)。
ならば、あんまさん(ないし視覚不自由者)が類型的なスタイルで描かれているのが差別的? だったら台詞ではなく絵のほうを変えるのが筋だろう(山根あおおにはこのてんとう虫コミックスライブラリー版に新作を描き下ろしているから、作業としては可能である)。
となると、「「目が見えない」というハンディキャップを、ことさらに強調するような描写を問題視し、書き換えをはかった」と推測されるのだが……。これは逆に差別的ではないだろうか? これでは「正常な社会には視覚不自由者など存在しないのだ」と言っているようなものである。
こう言えばわかりやすいだろうか? 
……「その人」は道端で通りがかることがあって、怪人が「その人」に変装することもあって、そして怪人は「その人」の特徴を演じ損ねて、探偵はそれを指摘する…… 
「その人」が、「あんまさん」なり「視覚不自由者」なりであっても、ごく当たり前と受け止められるのが、ノーマライゼーションがなされた社会というものなのだ。
このてんとう虫コミックスライブラリー版『名たんていカゲマン』は、「臭いものにはフタ」という出版社の安直な態度によって、むしろ差別を助長してしまっているのである。その配慮の無さ、浅薄さには失望を禁じえない。