夏休みのエスパー

夏休みのエスパー

夏休みのエスパー

なぜか検索エンジン経由でこのタイトルへのアクセスが多いので(10回そこそこだけど)、予定を変更してこれの感想から。といっても今は手元にないので、メモと記憶だけを頼りに書いてみる(いいのかそれで?)。

開放的な夏。恋の予感を期待してアルバイトを始めた平凡な男子大学生の主人公がバイト先で出会ったのは、中途半端なエスパーたちだった。自分たちが持つ超能力を世の中の役に立てたいと願う彼らと一緒に、ひょんなことからストーカー探しをすることになった僕だが……。さわやかなタッチで綴る表題作と、複雑に入り組んだ誘拐事件に巻き込まれた失業男の活躍を描くハードボイルド小説『OFF LIMITS』の2編を収録。
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-03402-7.jsp

エスパーと聞けば ♪サイコキネシス テレパシー 超能力を使うとき〜 と歌いたくなるところですが、この作品にはバビル2世もBABELも兵部少佐も登場しません。いやまあ、サイコキネシスや予知能力、テレパシーは登場しますが、いずれも「手を触れずに鉛筆を5�持ち上げられる」「数秒後の出来事を予知できる」そして「性交時にのみ相手の心が読める」という半端でない中途半端さ。なので当然、世界を破滅の危機から救うとか大仰な話にはならず、学生の夏休みのアルバイト生活をメインに、地に足の着いた日常的なムードで展開します。そこらへんの異色性が、まずセールスポイントの第一でしょうか。

で、念力能力者と予知能力者はそのムード相応に平和な善人なのですが、ヒロインたるテレパシー能力者はしっかり者ながら地味で厭世的で男性不信というクセのある人物(通称:学級委員長)。そのヒロインが見ず知らずの他人(普通に可愛い女子大生)のために、ストーカー探しに一肌脱ぐ(そういうテレパシーなので)あたりが話の肝。「超能力者には『自分を犠牲にしてでも』世のため人のために能力を使う使命がある」という、超能力ものの常道を、むちゃくちゃ小さなスケールのなかでやってのけているのです。

3人の超能力者に対して主人公の「僕」は、あくまで平凡な大学生だというのも巧妙で、「超能力者 対 普通の人」という、これも超能力ものの常道を、鮮明かつひとひねり加えた形で提示してくれます。

もちろんアマチュア作家の作品なので、「ストーカー事件の真犯人が最初からバレバレ」とか「エピローグ部分引っ張り過ぎ」といった、いかにもアマチュア的な欠点もあるのですが、相当な力量のある人なので(『OFF LIMITS』も、説明的な台詞回しが気になる程度でよくできている)、機会があればぜひご一読を。