吾妻ひでおとメンヘル系

さて、2006年流行予想のうち、70年代ブームのほう(05年12月20日付「明日は昨日の〜」)は『日本沈没』のおかげでなんとか再び触れることができたが……(06年7月12日付06年7月20日付)。いやぁ、全然広まりませんね、「メンヘル系」のほうは(05年12月20日付)。個人的には、最近こんな本も読んでいます。

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

失踪日記』(ISBN:4872575334)ほどのすさまじさはなく、かなり普通に日記。吾妻自身は傑作との自信を持っていた「夜を歩く」(後の『失踪日記』)の出版がなかなか決まらなかった事情(要するに、売れた実績のある作家のものでないと流通が出版社にプレッシャーをかけてくる、という…)とか、イーストプレス社がその価値を見出すあたりは、出版後の反響を知っている今読むとかなり興味深いです。オタク趣味の人には、漫画を含めた読書傾向や人気キャラを模写してるあたりも面白いのでは?(他人事のように書く私) タイトルの割にはうつうつな描写は淡々としたもので、毎日のように薬を服用していたり、日常生活の中で突如わけもなく罪悪感にさいなまれたり、突如幻視が起こったりする程度……って、描写が淡々としてるだけで実は結構大変なことか!?

ところで、山本弘は『トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS』(ISBN:4862480098)のなかで吾妻ひでおを取り上げて、このように評しております。

実は『失踪日記』を読んでも、その肝心の部分――なぜ仕事も家庭も捨てて逃げ出さなきゃならなかったのかが、よく分からない。(略)
僕からすれば、マンガ言えば原稿を投げ出して逃げ出すのは、プライドを捨てたことだと思うのだが、吾妻氏にとってはそうではなかったらしい。(略)
僕は仕事を続けることが作家としてのプライドだと思うし、家族を捨てることも肯定できない。(P157-158)

どうも山本弘は、精神的な疾患が原因にあるということが理解できていないようです。発症のトリガーのひとつは吾妻氏のプライドかもしれないけど、発症した以上は話は別なんですが……。山本弘はおそらく、「精神的な疾患など病気ではない、気の持ちように過ぎない」と思っている。
これを読んだときに私は「まぁ個人営業の極みたる職業作家には、『精神疾患もきちんと病気と扱い、かつ治療可能だという知識を広め、職場や家庭でも相応のケアをしましょう』という厚労省をはじめとした医療・保健関係の動向を把握してなくても仕方ないか」と思ったのですが……。よくよく考えてみれば、「精神疾患など病気ではない、気の持ちように過ぎない」という捉え方のほうが、世間では未だに一般的なのでしょう。
6月に可決した自殺対策基本法に基づく対策が本格的に動き出せば、そのあたりの認識が変わるのはまず間違いないのだが……(何が正しいかではなく、世の動向がそちらを向いているということ)。「メンヘル系」が広く人口に膾炙するようになるのはその前後、早くとも今年終盤あたりになると思います。