怪奇大作戦

5月28日にマンガ版『怪奇大作戦 (影丸・中城版)』の感想を前半についてのみ書いたのだが、まぁ話題になるような作品ではないとはいえ、ネタで一言書いた「怪奇大家族」でのアクセスのほうが多いというのはどうだろう。そんなこんなで、後半の感想は書いたっきりほったらかしだったのだが、このところ話題が無いのでひとつアップしてみる。

怪奇大作戦」とは……←ググれ、で済ませてもいいが、私なりに解説すると以下のようになる。

怪奇をはらんだ犯罪を最新科学で調査し、その謎を解き明かす調査・研究機関SRIの活躍を描いた犯罪ホラー特撮番組。率直に言って、トリックや捜査手法など科学にまつわるアイデアはトンデモ気味でご都合主義的で説得力に欠け、その面では大人の観賞に堪えるとは言い難い。しかしその一方、ドラマ面では凄惨な愛憎を描いたり社会問題を色濃く反映していたりと、子供が面白がれるレベルを超えている。一体誰に観てもらうつもりだったのか、低視聴率にあえぎ2クールで終了したのも当然といえるが、それ故にカルト的な人気を得ている。

といったところで漫画版「怪奇大作戦」の話のつづき。前半4話は、金に目がくらんだり復讐だったりと、わかりやすい動機による犯罪ばかりだったが、後半は理不尽な犯罪が増す。これは漫画家の変更とは無関係で、原作にあたるTV版からみられる傾向だ。
前述のとおり、TV版はドラマ面においては大人向けのつくりなのだが、漫画版はそのままではまずいと思ったのだろう、子供向けを意識したとみられる改変点が多い。しかし、それで子供だましの平板な話になったかというとそうでもなく、かえって物語の厚みが増している。
 
『氷の処刑台』
夜の住宅街に、触れただけで相手を凍死させる「冷凍人間」が出没する。彼は7年前は平凡なサラリーマンに過ぎなかった。だが人道を外れた科学者に騙され実験材料にされ、特殊な冷凍装置のなかで7年間生きつづけるうちに、冷凍人間に生まれ変わったのである。はからずも殺人を犯した冷凍人間自身に悪意は無く、それどころか彼は被害者であるというのが物語のキモで、救う術の無いSRIはやるせなさを感じつつ、彼を殺害して事件に幕を下ろす。

言うまでもなくテーマは「科学の暴走、人間性の喪失」。TV版では、平凡なサラリーマン・岡崎を冷凍人間に変えてしまった狂気の科学者は物語半ばで退場。クライマックスは、これもまた暴走気味の科学技術の産物「サンビーム500」が、哀れな冷凍人間を屠るという図式になっている。すなわち、「誰かの犯罪」ではなく、科学技術そのものの罪を暗に告発しているのだ。

対して漫画版は、それではうやむやだと思ったのだろう、問題の科学者は最後まで生き残り、半ば狂気にかられて「おれがおれのからだで実験してやる」と自らの身を冷凍装置に投じる。科学の罪を個人に背負わせた格好だが、的矢所長の締めの台詞と相まって、TV版よりもテーマが明確になったという印象もある。

また、TV版には登場しなかった岡崎の息子が登場しており、「蒸発人間」の問題を残された家族の側から浮き彫りにしている。蒸発=気化したいと思っていたのに冷凍=固形化されてしまう運命の皮肉が隠しテーマだ(これは冗談)。