帰省時の退屈しのぎに購入。……積読消化といいながら新たに買ってどうするんだと自分でも思う。
『このミステリーがすごい!』大賞10周年記念 10分間ミステリー (宝島社文庫)
- 作者: 『このミステリーがすごい!』大賞編集部編
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2012/02/07
- メディア: 文庫
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内容紹介
海堂尊、浅倉卓弥、中山七里、柚月裕子、高橋由太、七尾与史などを輩出してきたミステリー新人賞『このミステリーがすごい! 』大賞。創設10周年を記念して、原稿用紙10枚の、オール書き下ろしミステリーをお届けします。1編10分で楽しめてしまうベスト・ショート・ミステリー、29本! 謎解きあり、ユーモアあり、サスペンスありのお得な一冊。前述の作家をはじめ、『このミス』大賞作家が勢ぞろいです。
ミステリ作家に「原稿用紙10枚程度」という条件の短編を書かせると叙述トリックが多めに、そうでないのも「実は……だった!」のパターンばかりになってしまうのは致し方無しか。
つってもなぁ。「意外なオチ」を成立させるために、諸々の設定に無理が生じている作品も少なくない。読者の「先入観の裏をかく」は、一歩踏み外すと「あり得ない」ですから。
そのうえ「意外なオチ」は既に大方パターン化しているから、読み始めた早々でオチが想像できてしまい、意外でも何でもない。
たとえばタイトルが「私のカレーライス」で、書き出しがこうだったら……。
熱した鍋から、ぱちぱちとサラダ油の弾ける音がする。まな板を傾けて角切り肉を流し込むと、じゅわっと白い煙が上がった。赤い断面がみるみる白く染まっていく。
肉の焼ける香ばしい匂いのせいで、口の中に唾液が溢れてきた。
「美味しそう、ねえ、このまま食べてもよさそうじゃない」
返事はない。独り言になってしまったことが不満で、私は頬を膨らませた。
(p319「私のカレーライス」・佐藤青南)
……書き出しがこうだったら、「ああ、そういう」の一言でしょ? そして読み終えて「ああ、やっぱり」。
「意外なオチ」のバリエーションをあまり知らない読者にしても、やはり「誰かが死ぬ、誰かが殺される」という前提で読むわけで、そういう読者に予想できないオチなんてのは、そうはできないよねえ。といっても、ネタに走られるとそれはそれで「逃げたな」と思ってしまうし、寓話めいた一編はナニガナニヤラサッパリだったし、どうにも評価が難しい。
もちろん描写とか構成とかについては、いずれも「さすがこのミス大賞歴代受賞者!」と感心するんですけどね。単にオチで読者を驚かすのではなく、その事件(出来事)に対する登場人物の態度で面白みを出している作品などはまず巧妙です。
全29編中、これはと思ったのは下記の6編。
「防犯心理テスト」(上甲宣之) わずか10枚ほどの超短編に、犯行方法<ハウダニット>・動機<ホワイダニット>・暗号<パズル>というミステリの基本を凝縮している。
「十一月の客」(森川楓子) 真相が反則気味。だが読後に目次を開いて「生ビール、このコクとキレ!」の煽り文句に吹く。いやこれ、うまくボケているけど、この煽り文句なのに「十一月の客」という違和感が肝だから。これ書いた編集者は相当なバカだ(誉めている)。
「永遠のかくれんぼ」(中村哲) タイトルであらかじめ、殺人か誘拐か失踪が起こると明示しているのに、実際にどういう事件か起きているのかを結末近くまで隠しおおせた。これは巧い。
「最後の容疑者」(中山七里) 「名探偵 皆を集めて さてと言い」の王道ミステリ、古典的なクローズドサークル……と思いきや。このタイトルでこの結末はひでぇ(誉めている)。
「ある閉ざされた雪の雀荘で」(伽古屋圭市)
叙述トリックと動機を成立させるために、無理のある状況を真相にしてしまっている(四人そろってるのに何故サンマァ?)。ただ、あまりにもあんまりなダイイングメッセージと、あまりにもあんまりな真の動機と、そんな事件を後景化してしまう人物群の造形はインパクト大。
「父のスピーチ」(喜多喜久) 真相は予想の範疇だし、叙述トリックを成立させるための無理な設定が小賢しいが、読み返して「なるほど」と思えた。結末がわかっていると最初から話が組み替えられて、頭に思い描く情景が変わるカッチリ感が良い。