/静岡県立美術館「ロボットと美術展」

もう先週の話ですが9月18日にはるばる静岡くんだりまで出かけて「ロボットと美術」展を見てきたので軽くレポート。
「ロボットと美術展」サイトはこちら→
結論からいうと、「近隣の方なら一度は見に行って損無し、遠方の人は東静岡のガンダムとセットでどうぞ」てなところ。

これがご存じ「1/1ガンダム」。ほかにラストの大破した状態を再現した1/1コアファイターも展示。

そしてこちらは「ロボットと美術」展の1/1パワードスーツ。ガンダムが展示されている東静岡エリアからは長沼駅(目の前にガンプラ工場有り)から静岡鉄道で3駅、さらに徒歩10分ほど。

ティントイを思わせるレトロムードの受付ロボと錆びた調子のパワードスーツと元気な鉄腕アトムというシュールな組み合わせ。右の2体は旧静岡市立児童会館所蔵のロボットとのこと。このほか、撮影不可の館内には1/1SAFSも展示されていた。

18日は静岡での初日ということで、14:00〜16:00に3館(青森県立美術館静岡県立美術館、島根県立石見美術館)の担当学芸員によるシンポジウム「ロボ美のできるまで」があった。以下、記憶に残っていることを箇条書き。〈 〉はそれに対する私の感想。

・今回の企画展ではロボットの定義はあえて明確にせず。なんとなく「人の似姿の機械」くらいの感じ。だから産業用ロボットやルンバ(掃除機ロボット)などは扱わない一方、初音ミクは取り上げている。〈博物館ではない美術館ならではの視点というべきか。ただ、インダストリアルデザインには踏み込んでほしかった。アニメロボのリアルへのフィードバックとしての「ガンダム車」ランエボGT-Rなど〉

・ミクと同列でアイドル@マスターも取り上げたかったが諸々の事情でかなわず。〈アイマスを広義のロボットとして扱う視点が面白い。三次元終了=生身の人体終了?〉

・青い猫型ロボットや名古屋弁の眼鏡の女の子も当然取り上げたかったが版元の協力がむにゃむにゃ。〈アイマスを扱えないのはどういう事情だったかは失念〉

東郷青児ロボ娘萌え。東郷本人が「義手義足義眼義毛等に一種の興奮を感じる」と言及。故に東郷の描くクールビューティは無機質。<このあたりの着想が、この企画展の眼目のひとつだろう。なお、義手・義足の技術はWWIにより発達したとのこと。大戦間モダニズムと戦争・テクノロジーとの関わりは掘り下げると面白そう>

ロボ娘萌えと眼鏡っ娘萌えは同根である。〈実際の発言は「人体への無機物の付加に対するフェティシズム」とかそういう言い方だったんだけど、大意はマァこんな感じ〉

・ロボット(人の似姿の機械)は将来的には「マニュアル」になるだろう。人間と純粋な道具である機械とを結ぶインターフェース的な役割。〈これは午前中の高橋智隆氏の講演を引いたものだったか。ツンデレワンセグの失敗と絡めて考えたい〉

ドラえもんはまさにその「マニュアル」ではないか。すごいのはひみつ道具で本人には大した機能は無い。

・ロボットは友人ならぬ友物として存在する。〈違う! 人間だったら友達だけどロボットだからロボダッチだ!! あ、そういや小澤さとる関連の展示は無かったなー〉

ドラえもんには、のび太とは無関係な交友関係があるからこそ友物として安心して付き合える〈これも高橋智隆氏の講演の話だったか〉

・この企画展のために短編アニメを制作(こんなの→)。美術館には珍しい(初の?)試み。制作費は若手アーティストのインスタレーションと同程度に収まるので、他の館もぜひやってみてほしい〈むしろインスタレーションのギャラがどれくらいなんだか気になる。短編アニメは館内での上映のほか、展覧会図録にDVDとして付録。私はDVD無しのほうを買っちゃいましたが〉

・短編アニメのイメージソースのひとつは「尾道の坂を女子中学生が白いヘルメットを被って自転車通学する姿」。というのも、静岡の担当学芸員は「かみちゅ」が好きだから……と青森の担当学芸員がバラしてしまう。〈おい〉

・石見の担当学芸員は知的な美人さん。司会役の人はやや「女性ならではの視点」での発言を求め過ぎていた感じ。

大阪万博で展示された、フジパン館の一郎たち兄弟も展示。これをデザインした相澤次郎は今では埋もれた存在だが、一時は「ロボット博士」と広く知られた、戦前から日本におけるロボット研究の第一人者だった。再評価されるべき人物だろう。〈…知らなかった〉
 
まぁそんなこんなで熱意ある学芸員たちに支えられた企画展でして、「美術館によるサブカルチャーのすくい上げ」では決してない、「ロボットと美術」というテーマと真摯に向き合った展示は、全体にかなりの見応えがあるものでした。
無論、ムズカシイことを考えずにただ眺めるだけでも十分に面白いので、一度は見に行って損無し、遠方の人は東静岡のガンダムとセットで訪ねられてはいかがでしょうか。



まぁ細かい不満も無いわけではない。全体的にもう少し、各時代のテクノロジーとアートとの関わりはきちんと見せて欲しかったな、と。「流線型」のように、サイエンスがまずテクノロジーとして人々の目に現れ、その形状がアートに取り入れられた、という流れはあるいはロボットにもあるのではないか? そこらへん、やや踏み込み不足を感じてしまう。

アニオタ的には、小さなディスプレイでリピートされている「鉄腕アトム」のオープニングが何故か1980年版なのが気になった。ほかの展示物は当然ながら最初の「鉄腕アトム」に絡むものがメインなので、やや不整合を起こしている感じ。古くさいデザインのアトムが、アニメブームの黎明期(「テレビまんが」が「アニメ」になった時代)の映像の中を飛び回る、というビミョーさは実に楽しいのだけれど(苦笑)。「鉄人28号」も何故か2004年版のオープニングで、昭和30年代の雰囲気を重視した映像ではあるものの、これまたちょっと疑問に思う。

玩オタ的にちょっと看過し難いのは、「超合金」として展示されている玩具が、しかし後年の「超合金魂」メインだったりすること。まぁ劇中イメージの立体物という点では、放送当時の超合金でなく「魂」版を選ぶのは当然といえば当然なんだけどね。