/「ガンダム」を見ない自動車評論家

車とアニメの関係といえば、昨年秋のギャラリーで日産が「現行GT-Rのデザインの原典はガンダム」だとぶっちゃけたそうで。
http://clockworkchicken.blog.shinobi.jp/Entry/26/

まさかのガンダム。入ってきてすぐにこれはびっくり。

GT-Rは、欧米の流麗なデザインに対して日本ならではのデザイン、ガンダムのようなロボットの持つ機械でありながら生命感を感じさせるデザインを意識したんだそうな。

以前にも取り上げましたが、評論(ていうか感想)の側においては、「ガンダム」という用語はすでに定着しているのですが(過去に触れた記事→)、メーカー側・デザイナー側から明言されたのはたぶんこれが初じゃないかなぁ。自動車用語としての「ガンダム」は、いずれまた取り上げるつもりでしょぼしょぼとネタを集めていたのですが、またちょっと探るべきものが増えてしまったよ。

GT-Rガンダム、そしてロボットにトランスフォームしたGT-Rを並べてみた。
ただ、いずれにしても、今のところ…今にいたってなお自動車用語「ガンダム」には定義が無いし、それどころか「何がガンダムと呼ばれたか」の整理をした者さえいない(ようだ。いるなら私に教えてください、マジで)。
まったくもって愚かなことだ。
たとえば「ホリデーオート」誌でのピーター・ライオンの連載、「Japanese Car-Guy 評判記」で現行GT-Rを取り上げた回(2009年7月号)にこうある。

まずは外観に対する評判から。実は国によって多少評判が異なるけど、全体的に言えば、GT-Rは非常に機能的で、まるで日本のアニメの中から生まれたロボットみたいなフォルムだと評する同僚が多い。また、何にも似ていないというところが印象的だとイタリア人の同僚が語る。
「決してヨーロッパ流のスーパーカーみたいな色気はどこにもないけど、存在感は十分ある」とドイツ人のエディターが頷く。
GT-Rがルームミラーに映ったら、いきなりジャイギャントー(鉄人28号の海外名)が飛んできたかと思って、みんなどいてくれるよね」とオーストラリア人の同僚がいう。

ガンダムは知らない人にも「欧米の流麗なデザインに対して日本ならではのデザイン」「ガンダムのようなロボットの持つ機械でありながら生命感を感じさせるデザイン」という意図が、正しく伝わっている。「GT-Rのデザインはジャパンオリジナル」だと海外に受容され、かつそれは「アニメロボット的」だと捉えられているのですよ。「ガンダム鉄人28号の共通点ってどこ?」という問題はさておき。
にもかかわらず、例えばこの本である。

JAPAN CAR 飽和した世界のためのデザイン

JAPAN CAR 飽和した世界のためのデザイン

帯はご大層に「〜ジャパンカー。その独創性に日本人は気づいているか?」とのたまっているが、「ガンダム」には一言の言及も無い。一言も。
好き嫌いの問題ではない、現にそういう単語が長く用語として使われ、定着しているのだ。そしてそれは紛れもなくジャパンオリジナルなのである。それをあえて無視するとは、書き手には一体どれほどの覚悟があるのか。

あるいは川口盛之助。痛車など、ジャパンオリジナルというかオタク文化に対して強い関心を持ち、実際かなり詳しい人ではあるのだが…。どうも「ガンダム」車には関心も知識も無いようだ。

「痛車」〜自動車界に登場した超新星 日本独自のカスタマイズ文化が世界に進出する?
(日経ビジネスオンライン2008年9月1日)
(略)
その代表的なものが「スポコン」ことスポーツコンパクトと呼ばれるジャンルです。「ワイルドスピード」という2001年の映画がきっかけとなり、米西海岸の男の子たちの間で急成長しました。スカイライン日産自動車)やランエボ三菱自動車ランサー)に憧れる日本の走り屋系カルチャーが海を越えて開花したものです。

白井編集長によると、この「スポコン」も急成長したジャンルで、日本車がその高性能さを認められた結果、初めて輸出された「車カルチャー」だったということです。当時の時代背景を考えると、日本のイメージは「高品質で高信頼性の工業製品」に尽きるでしょう。ただ、そこには昨今のようにポケモンキャプテン翼といった物語性は無く、技術とハードウエアだけでした。その意味で限界があったのでしょうか、スポコンブームは息が続かず数年で急速に収斂してしまいます。

スポコンブームを「技術とハードウエアだけ」だと捉えている。しかし例えばこのカーボンモータースE7はどうだ。

噂のパトカー専用車、E7…予約1万台突破
http://response.jp/article/img/2009/06/15/125985/203351.html

いかめしいツラしてるでしょ。私ゃ初めて見たときにはてっきり三菱の新型かと思いましたよ。パトカー専用車故に威圧感のある顔にした、という事情もあるだろうが、これはスポコンブームで脚光を浴びた日本車に多大な影響を受けたデザイン、いわば「アメリカ生まれのガンダム」だと評してもあながち外れではあるまい(Gセイバーやアゴが割れてる肥満体のシャアは無関係)。スポコンにはそうした影響力があった、にもかかわらず、川口はそこにジャパンオリジナルの影響力を見出せないでいる。
いやまったく、誰か名のある評論家のなかに、「ガンダム」のカーデザインの経緯と状況を整理できる者はいないのだろうか。
……少なくとも自動車評論家にはそれを期待できる人物はいないんだよなー。とほー。(蛇足ながら、私は「ガンダム」を「機能を感じさせるディテールを肥大させてデコレーションとしたデザイン」くらいに定義しています)。