マッハ号のエンジンレイアウトの謎

スピード・レーサー 特別版 (2枚組) [DVD]

スピード・レーサー 特別版 (2枚組) [DVD]

今年公開のウォシャウスキー兄弟監督版「スピード・レーサー」にも、ほとんど昔のままの姿で登場して、なお見劣りしないという、時代を超越したデザインの名車・マッハ号。
さてこのマッハ号、エンジンは何処に搭載しているのでしょう?
多少なりとも車好きの人ならば、運転席の後にエンジンを載せているミドシップレイアウトだと、一見して思うのではないでしょうか。ボンネットはスラリとシャープに尖っているし、一方でリアフェンダー前縁上端に吸気孔が開口されている。リアシートも無いし、レーシングカーのセオリーから言ってもミドシップだろう、と。
え〜と、マァ、こう話を切り出せば大方予想は着くでしょうが、これが実際にはミドシップではないのです(あ、映画『スピードレーサー』は未見なので、この話はあくまで『マッハGoGoGo』についてです)。
『メカマン・アートワークス 中村光毅の世界』P36に掲載されている、マッハ号のデザインを手がけた中村光毅による透視図。エンジンが縦置きであのボンネットに納まっています。これが二次元の嘘でないことは、アオシマのプラモデル、1/24マッハ号(旧イマイ製)が証明しています。
青島文化教材社 マッハGoGoGo 1/24 マッハ号 7フルバージョン

青島文化教材社 マッハGoGoGo 1/24 マッハ号 7フルバージョン

これを前提にして改めてマッハ号のエクステリアを見てみると、ミドシップだとしたらこれほどのロングノーズなのは確かに不自然。そうかなるほど、フロントエンジンなのかと納得がいきます。
……。
………ところがですね、実はやっぱりミドシップなんですよ。
マッハGoGoGo 1

マッハGoGoGo 1

マッハGo Go Go 2

マッハGo Go Go 2

スピード・レーサー」公開に合わせて、この夏に復刻された漫画版『マッハGoGoGo』。これにはこんな場面があります。

ご覧のとおり、運転席の後にエンジンが載っている。
アニメと漫画で設定が違うなんてよくある話、ですがこれはどうにも引っかかる。「そもそものデザインは誰か?」という疑問に行きついてしまうからです。
先に書いたとおり、リアフェンダーに吸気孔があるわ2座だわで、一見するとミドシップ。ですが、中村光毅はフロントエンジンに設定し、一方でタツノコプロの生みの親、初期の作品についてはほとんどのデザインに関わっている吉田竜夫ミドシップに描いている。
とすると、「実は中村光毅デザインではなく、実質的には吉田竜夫のデザイン。アニメ用クリンナップと細部の設定の詰めを担当したのが中村光毅だった。その際、何かしらの事情でエンジンレイアウトを変更した。あるいは連絡不足で、ミドシップだったものが設定上フロントエンジンになってしまった」という仮説が浮かびます。
ですが、前掲書『メカマン・アートワークス』には中村光毅のコメントとしてこう書かれている。

ただ、主役メカだけは新しくて斬新なものにしよう、ということで、当時、美術担当だった私に白羽の矢が立ったのでしょう。
それこそ何百枚もスケッチを描いていたんですが、なかなかこれでいこうというのが出ませんで苦労しました。
(略)
それで、スポンサーへのプレゼン用の資料が出揃って、見てみたら主人公のレースカーだけが抜けているんですね。まだ私が描き上げていないので。それは、凄いプレッシャーでした。で、あるとき、理論的に考えるのを止めて、もう、想いっきり荒唐無稽にできないものか? と考えて出来たのがあの形なんです。

仮に吉田竜夫デザインだとしたら、その事実はあえて隠すことではありませんから、やはり中村光毅がデザインしたと捉えてよさそうです。
結局、疑問点は以下のふたつに整理されます。
1.中村版(アニメ版)=フロント、吉田版(漫画版)=ミドとなぜ分かれてしまったのか。吉田竜夫はなぜ設定に忠実に描かなかったのか。
2.一から中村光毅のデザインだとしたら、なぜリアフェンダーを開口したのか、あの吸気孔は何のためなのか(位置が低ければブレーキ冷却用で説明が付くのに…)。
こう言ってはなんですが、中村氏が元気なうちにどなたかこのあたりのことを訊いてみてくりゃせんでしょうかね。