商機を疑う

1992年刊『どこが超能力やねん』の復刻版。どうも加筆は前書きと後書きだけのようで、内容的にはいささか……いや、思いっきり古臭い。TVで紹介される「超能力」と称する手品について、冷静な観察力と思考力とでそのトリックを解き明かす、という組み立て自体は現代においても有効だが、「超能力者を紹介するTV番組」が現代にはほとんど無い(よね?)からなぁ。ガードナーの『奇妙な論理』(asin:4150502722)くらいになると「歴史的トピックの解説」だから古さは感じないのだけれど、元々は同時代の問題を取り扱うというスタンスで書かれた本を、何の加筆もなしに復刊するという安直さには疑問を感じる。
 
それにしたって、『どこが超能力やねん』というシンプルかつ著者のスタンスが伝わりやすいタイトルのままにしておけばいいものを、何故に『トリックの教科書』なんて、手品の解説書かと思うようなタイトルに変えたのか不思議でならなかった。
その疑問に、前書きが間接的に答えてくれた。

また本書は、今や国民的女優となった仲間由紀恵を世に知らしめたTVドラマ『トリック』の教科書として大いに用いられていることは、知る人ぞ知る話である。

要するに、復刊計画としては『トリック』人気にあやかろう、という魂胆だったわけだ。しかし『トリック』、最終作となった劇場版2の公開が2006年6月。今年の3月となると「トリック」と聞いてイコールあの作品と認識する人は熱心なファンくらいだろう。完全に時期を逸している。ていうか、ほとんど加筆・改訂のない復刊なんだから、いつだって出せたはずなのに、どうして今年3月になったのか……。また、商機を逸した以上はタイトルを元に戻すというのが正しい判断だと思うのだが、そのあたりに気が回らなかったのだろうか? まさかそこにこそ何かのトリックが!?