/80年代ロボットアニメの象徴、サイコガンダム

で、『グレートメカニック』21号(ISBN:4575464317)の感想として、「80年代ロボットアニメを、玩具・キャラクタープラモデル(以下キャラモデルと略)史抜きで語ることに無理がある」などと書くつもりでいたらついつい筆が走ってしまい、思った以上のボリュームになってしまったので、独立した記事にしてみた。

――たとえばサイコガンダムをテクストにすれば、以下のように80年代の玩具・プラモとロボットアニメの状況を縦横に語ることができる。

80年代初頭に火がついたガンプラバンダイ)ブームとそのフォロアーによって、各関節可動・非電動・スケール表示のキャラモデルはひとつの市場を形成するに至った。「イデオン」のアオシマ、「マクロス」の今井科学とアリイとLSなど、元よりプラモを主力としていたメーカーだけでなく、玩具メーカーのタカラが「ダグラム」で、同じく玩具メーカーのトミーが「レンズマン」で、塗料メーカーとして名の知られたグンゼ産業が「ドルバック」で参入するなど、キャラモデル市場は今では想像もつかないほど活気に充ちた状況にあった。

しかしブームとは一過性で終わるもの。「ボトムズ」は「ダグラム」のヒットを継ぐことができず、「マクロス」の後を継いだ「オーガス」も同様だ。トミーやグン産も1タイトルきりで撤退する。市場の牽引役だったバンダイもジリ貧状態におかれてしまった。しかし、そうしたなかでも「ガンダム」タイトルの後継者たるMSVシリーズは好調だった。そこで「やはりガンダムでないと」と、「エルガイム」の後番組として始まったのが「Zガンダム」だった――。ここまでが当時のプラモの状況だ。

さて一方、キャラモデルブームによって割をくったのが一部の玩具メーカーである。キャラモデル人気とはすなわちユーザーの「リアル志向」であり、年齢層の上昇でもあった。番組のほうもそうしたファンに合わせた内容になっていく。それまでは子供向けだったロボットアニメについて、子供向けの完成品玩具を作ってきた玩具メーカーは、そうした時流に乗り切れなかった。「世界の超合金」でおなじみポピーが、バンダイ門下に降ってしまう。「ガンダム」「ザブングル」といった人気タイトルを支えてきたクローバーが、「ダンバイン」放映途中で倒産してしまう。事の経緯はそれぞれもう少し複雑だろうが、ともかくもこの時代にポピーがバンダイの一部となったこと、クローバーが倒産したことは事実である。
そのため、これ以降バンダイは、慣例ではクローバーがスポンサーについていたタイトルについても玩具を発売することになる。それが「エルガイム」、そして「Zガンダム」だった――。ここまでが当時の玩具の状況・接触編だ。

そんな状況下でも躍進をみせた玩具メーカーがある。キャラクター玩具の歴史を変えた超絶プロダクト、3段変形バルキリーを世に送り出したタカトクトイスと、リアルロボットアニメに対する強烈なカウンターとなった「トランスフォーマー」のタカラだ。バルキリーはとにかく凄かった。現用戦闘機F-14トムキャットによく似たファイター形態から、かつて誰も見たことの無い「手足の生えた戦闘機」ガウォーク形態となり、さらにはヒーロー然としたスマートなバトロイド形態に変形する。それも一切のパーツ差し替え無しで!! これがどれほど凄いのかわからないなら、とりあえず古玩具を集めている人間と知り合いになり、バルキリー前のバクシンガーバルキリー後のサスライガーとを見比べさせてもらうことだ(メーカーはいずれもタカトク)。バルキリーが歴史の転換点であったことが即座に理解できよう。また、1/55とスケール表示こそ中途半端だが、玩具然とした派手さや安っぽさを排した仕上がりは、キャラモデルに最適化されたファンの目にも十分リアルと映った。かつてない精巧なギミックとリアル感を兼ね備えたバルキリーは、「マクロス」の番組人気もあって大ヒット玩具になった(そのタカトクも80年代のうちに倒産してしまうのだが)。

でもってTFはTFで大ヒット、と。なんかさぁ、TFがヒットしたからZガンダムも変形するようになった、って記事をよく見かけるれど、違うよね。2代目主役メカの単体変形は2年前のビルバインからだし。ターゲットユーザーの年齢層がZガンダムとTFじゃかなりずれてるし、TFのヒット要因を表層だけでも分析すれば、何をどう間違ったってZガンダムにはならんよなあ。でもまぁ根拠の無い説と切り捨てることもできないので迎合しておく。

バルキリートランスフォーマーのヒットにより、バンダイは「Zガンダム」にも変形は必要不可欠な要素だと判断した――。ここまでが当時の玩具の状況・発動編。

そしていよいよサイコガンダムである。キャラモデル市場の衰退を受けてTVでの復活を果たした「ガンダム」タイトルだったが、ブーム当時のようにプラモデルだけを売ればいいわけではなかった。クローバーが倒産した一方で、バルキリーとTFにより玩具市場にもまだ可能性があることが見えてきたからだ。そこでバンダイは社内及び関係者に、玩具の商品展開を見据えた「変形する新ガンダム」のコンセプトを募ることにした。そこで旧ポピーのエライ人が(名前覚える気にならん。『THE超合金』とかに載ってる)往年のヒット作、大鉄人17を下地にした新ガンダムを提案する。当人はもちろん、主役ガンダムのつもりでの提案だった。

その、あまりにも宇宙世紀の世界観からかけ離れた、そしてどうにもカッコ悪いデザインは、Zガンダムとして採用されることはなかったが、いかなる事情があってかサイコガンダムとして番組に登場することになった。しかしその異世界のデザインを活かすためか、全高40mというそれまでのガンダム世界の常識からかけ離れた設定になってしまう。結果できあがった映像は、「巨大ロボットが、主人公側のこまごました攻撃をものともせずに、世界を破壊し尽くす勢いで暴れまくる」……。これはあるいは、何かを暗示しているのかもしれない。

以上、記憶だけを頼りに、裏を取らずに書いていることなのでいくつか事実誤認もあるだろうが(とくにポピー吸収の経緯と、Zガンダムの企画の成立については自信がないので頭から信じないように)、ともかくサイコガンダムひとつで当時の玩具・プラモとロボットアニメの状況……ジリ貧で追い詰められて、ボロボロになっているのにそれでも何とかなっていた状況……を縦横に語れるということは、わかっていただけたかと思う。

他にも、「ドルバック」すらそのプラモデルはアニメとは無関係の展開を見せた、とか、そのプラモでの展開が映像にフィードバックされる形でパワードアーマーが主役の短編アニメが作られたとか、そのパワードアーマーに多大な影響を与えているのが模型誌のフォトストーリー連載からマスプロダクツのプラモデルになった「SF3D」であるとか、玩具方面では「モスピーダ」での学研の参入とか、その「モスピーダ」に関しては、初期のイメージボードには影も形も無かったレギオスが発表されたときの衝撃とか(バルキリーの最も直接的な影響だ)、そのくせ玩具と全く関係無しにトレッカーが突然変形したときの衝撃とか、まぁとにかく色々と80年代ロボットアニメを映像作品だけで語ってはいかんと強く思うのだ。