「汽車旅行」読了

「汽車旅行」(大城のぼる小学館 ISBN:4778030109)。東京から名古屋まで、東海道本線の列車で旅をしながら、途中駅の名物やその土地にちなんだ昔話を紹介していくという趣向のマンガ。
昭和16年に描かれた作品だけに、やはり興味深いのは当時の世相やトピック。まだ東京港が無く「膻濱市は東京の玄關のやうな大事な港」だったり、東京〜京都が汽車で12時間かかったり、丹那トンネルがもたらした進歩を旧・東海道本線(現・御殿場線)ルートとの比較であらわしたり、トンネルに入るなり窓を閉めたりといった、いかにもな描写だけではありません。
途中、車窓から見える三保の松原にちなんで「羽衣物語」が語られるのですが、天人に羽衣を返してくれと言われた漁師が答えて曰く「このめづらしい羽衣は日本のたからとせねばなりません」。あるいは、浜松にちなんで語られるのは日吉丸の物語。あれ? これってそんな有名な物語なの? と思いつつ読み進めると、日吉丸が長じての話が語られて……。

またたくまに日本六十餘州を平らげるやその勢ひをもつてなほも進んで
海のかなたのアジア大陸にむかつて國のまじわりをすゝめ これをせまり
従わずして刃向かう時は たちまち討ちやぶり 連戦連勝!(中略)
わが日本の国威を遠く世界のはてまでも知らしめた英雄關白太政大臣豊臣秀吉である。

いやぁ実になんとも昭和16年ですなぁ。
また、どういうわけかアニメーション(フィルム漫画)の作り方を、18ページもかけて詳細に解説しているのですが、フィルム1本16分に小さなワクの数が全部で16,000コマあると聞いて……

「エ!ッ 一萬六千コマ!」
「いや大した数だなァこれを一つ一つお描きになるのですか」
もちろんです

リミテッドアニメというのは偉大な発明だったのだなぁと思ってしまいます。