セカイ系の浸透と拡散

「最近、「セカイ系」と呼ばれる人たちが増えているという」って、いきなり飯を噴く。

オバマ批判はできても「自分の明日」は語れない
引きこもりに多い“セカイ系”の不思議な生態

最近、「セカイ系」と呼ばれる人たちが増えているという。

セカイ系とは、自分自身の思考が、内面にある「自分」の問題の次に、平和や環境といった「世界」の出来事があるという意識傾向を持った人たちのことだそうで、その「自分」と「世界」をつなぐ「真ん中」がすっぽり抜けているのが特徴だ。

元々、インターネット上で広まった言葉らしいのだが、引きこもる人たちの間でも、そのまま自らに当てはめて、使われるようになったようだという。長年、引きこもる若者たちの支援や就労活動に携わってきたNPO法人「育て上げネット」(東京都立川市)理事長の工藤啓さんによると、当事者自らが「自分はセカイ系だから…」などとネーミングしているらしい。

工藤さんによると、こうした「思考が自分の次にセカイ」という意識傾向を持った人たちは、自らの頭が良すぎるために、自分は動けないけど、机上で「世界や社会には問題があるのではないか」と常に考えているタイプが結構多いそうなのだ。
 
ダイヤモンド・オンライン連載
「引きこもり」するオトナたち【第53回】 2011年1月27日
http://diamond.jp/articles/-/10904

とっくに死語化したと思っていたら、こんな形で生きていたのかセカイ系。創作物でなくリアルな人間の意識傾向を指すまでになるとは、ちょっと予想外だった。
ただこの記事、「セカイ系」とされる人との対話が差し挟まれるのだが「これはただのオタクか普通の引きこもりだ」というレベル。なんつーかこう、「セカイ系という(自分にとって)耳新しい言葉を知ったので早速使ってみました」感のある記事だった。
とはいえ冒頭には「当事者自らが「自分はセカイ系だから…」などとネーミングしている」との事例が出てくるし、セカイ系という語が浸透し拡散しているのは確からしい。
そこで今回「セカイ系の浸透と拡散」と題したのだが、実はこのテーマ、1年ちょっと前にも書こうとしたことがある。「ヤッターマン」最終回の感想として。

ひとが抱く「願い」など無価値だと判断した泥棒の神様・ドクロベーは「人間から願いを奪ってやろう! そうすれば醜い争いもこの世から消え去るだべー!」と言って、復活したドクロストーンの力を使い、全世界の人々から願いを盗み出そうとする。
だがそこに「待て!」立ちはだかるヤッターマン1号。
「俺はそんなこと絶対に許さない…! 俺は…俺は…、俺はアイちゃんにどうしても伝えなきゃいけないことがあるんだ!!」

って待てコラ。全世界の人々が危機だというのに、考えてるのはテメエの告白のことですか? 番組は「ヤッターマン」ですがこれは別にギャグじゃない。作り手は大真面目に感動の名シーンのつもりで作っている。なにせヤッターマン1号、これに続いて演説をぶつのだ。

俺はアイちゃんとずっといっしょにいたい。これからも、ずっといっしょにしゃべったり遊んだり、時にはケンカしたりやきもち焼いたりバカやったり……。でもこの気持ち、まだちゃんとアイちゃんに伝えてない。
だから! この願い絶対に盗られるわけにはいかないんだーッ!!

全世界の人々とか全く眼中にありません。いいのか正義のヒーロー。何かもう、文字だけだとホントにギャグとしか読めないが、画面は「ここで泣け」と言わんばかりの感動演出です。
私などはマァ、「なんじゃこりゃ」と思ってしまうのだが、今どきの作り手は、そして受け手は違和感を感じないほうが大多数なのかもしれない。全世界と愛しのあの娘(というかあの娘を愛しいと思っている自分)とが同列で、しかも後者のほうが価値が高い……ああ、これってセカイ系だ。
んで、「『セカイ系』って最近きかないけど、それは廃れたからではなく、勧善懲悪基調の子供番組までもがセカイ系的な世界観に染まってしまったからだ」てな感想を書こうと思っていたのでした。
時期を逸してそのまま触れることなく今日まで来たのですが……。
実はこのテーマ、ひと月前にも書こうとしたことがある。『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦! ベリアル銀河帝国』の予告でこんな台詞を聞いたからだ。

「俺は君を守り…、この宇宙の平和を守る…。信じてくれ…」

「君」と「宇宙の平和」が同列で、しかも「君」が先。今ではウルトラマンさえこんな調子なのだ。
フィクションにおいては、セカイ系的な世界の認識はもはや普遍的なものとなった。そのため、今ではあえて使う場面が無い。そしてセカイ系的認識はついにリアルまで侵すようになり、「最近、「セカイ系」と呼ばれる人たちが増えている」という状況に至った……。こんな仮説が頭に浮かぶ。