朕と自称したビートルズ

先日、ふとroyal-we(王家の人の一人称としての’we’)はどう訳されてきたかが気になって、ネットでざっと検索してみた。そこでひっかかったのがこの記事。

http://hp.vector.co.jp/authors/VA018633/mna040.htm
ビートルズアメリカを訪問した折、インタビューに“僕達”の意味で“we”を使った。それを聞いた人々は何様のつもりだと思ったそうである。

ビートルズといえば、今はメンバーのひとりが「笑点」でざぶとん運びをしていることぐらいしか知らないのだが(それはずうとるび)、なるほどさまざまな「伝統」の枠を飛び越えた、労働者階級出身の若き国際的ミュージシャンに相応しいエピソードだとは思う。
だが、いくつか腑に落ちない点がある。まず常識・非常識のレベル。もし仮にビートルズが、王のいない国、移民の国アメリカで成り上がった、伝統のなんたるかを知らないはねっかえりの若者たちだったなら、そして女王陛下の国イギリスに渡った際の話であったならば「事もあろうに自らを”we”と称した」という話はちょいブラックな笑い話としてすんなり読める。だがこれは全く逆に、イギリスからアメリカに渡ったときのことなのだ。いくら気の回らない若者であっても、royal-weと取られかねない言い回しなどしないのではないか?
となると、「“僕達”の意味で“we”」を使うことが、それほど特殊なケースなのか? という疑問に行き当たる。この記事からして、主語はポールでもリンゴでもジョンでも山田隆夫でもなく(そのボケはもういい)、「ビートルズが」“we”を使った、ではないか。ユニットに対する質問に、ユニットとしての答えたなら主語は必定`僕達`になるのではないか? そしてそれは、ビートルズだけに限ったことではないと思える。
もしこのエピソードが本当だとしたら、つまるところ「それを聞いた人々」の悪意に基づく曲解ではないかと思う。守旧的な人々、ビートルズをこころよく思っていない人々が「労働者階級の小生意気なガキどもめ、ちょっと人気が出たからと思い上がって、とうとう”自分たち”を王族並に言うようになりやがった!」と思い込んだ、という話だ。いや、「何様のつもりだと思った」人の大半は、本当はそれを聞いてすらいなかったのではないか? 前後の文脈から切り離されて「ヤロウどもはroyal-weを使いやがった」という話だけが独り歩きした、とも考えられる(今どきもよくある話だ・苦笑)。こういうふうに考えを巡らせると、当時のビートルズの受け止められ方の一断面が見える思いがする。
……と、長々と憶測を書いてみたけれど、ひょっとしてこのエピソードは「ああ、はいはい、ビートルズの`we`の話ね」とファンなら誰でも知っているようなものなのだろうか? Web検索ではこれ以上は調べにくいトピックなので、どなたか詳しいことをご存知の方がいらしたら、情報提供をお願いしたい。