「妖怪ハンター 対 百姫たん!」

今ひとつメジャーになれないものの私含めて固定ファンは多く、DL数も先日160万に到達したスマホゲーム「妖怪百姫たん!」。……2年半で160万というのも多いんだか少ないんだか評価に困るところですが、いやまあリリースから2年半経った今でもコンスタントに更新されているのですから、まずは順調といっていいでしょう。一週間ほど前にはメインシナリオの新章(第三部三章)がリリースされました。

iOS/Android「妖怪百姫たん!」
メインストーリー新章が5月25日配信決定!
桃太郎こと吉備津彦命が登場する大召喚祭も同時開催

(略)
河童の復活を喜ぶ間もなく、「波下ノ宮」の赤間大明神に召喚されるあるじ達。赤間大明神は、大魔縁一味に奪われた「十種神宝」の一つ、蜂ノ比礼を奪還するように依頼する。

それを阻止せんと動くぬらりひょん。しかし、彼女は戦いを広めることよりも、あるじの側にいる妖怪達に対する嫉妬心のほうが強くなっている自分に気が付き、次第に不安定になっていく…

ついに、メインストーリー第三部三章配信を開始。心強い仲間を得て打倒大魔縁の狼煙を上げるあるじたちの新たな物語を、ぜひご覧ください。
(略)
http://www.gamer.ne.jp/news/201705190024/

…というわけで、新章では「波下ノ宮」の赤間大明神なるキャラクターが重要な役割を果たします。さて「波下ノ宮」とは? はい、『平家物語』のアレです、「波のしたにも都のさぶらうぞ」です。「百姫たん」本編にはこんな台詞があります。

「ああ、人間の世界でいうところの安徳天皇…。ここじゃ、赤間大明神の名で通っているけどな」
ほうほう。「百姫たん」はこう見えて妖怪関連の考証はしっかりしたゲームなので、赤間大明神というのも根拠無きものではあるまいとググってみる。

赤間神宮
赤間神宮(あかまじんぐう)は、山口県下関市にある神社である。旧社格官幣大社壇ノ浦の戦いにおいて幼くして亡くなった安徳天皇を祀る。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E9%96%93%E7%A5%9E%E5%AE%AE

不勉強につきこれまで知らなかったのですが、現実にも安徳天皇を祀っている「赤間神宮」という神社があるのでした。
 
……そうはいっても、「妖怪」で「安徳天皇」とくれば、思い出すのはやはり『妖怪ハンター』「海竜祭の夜」。

海竜祭の夜 妖怪ハンター (ジャンプスーパーコミックス)

海竜祭の夜 妖怪ハンター (ジャンプスーパーコミックス)

……主人公の稗田先生、「海竜祭」なる奇祭を見に離島にまで出かけたが、そこでは禁忌を犯した若者が行方知れずになっていて……という伝奇ものの定番展開なんですが、目を引くのはそこに平家伝説を絡めたこと。いや、「絡めた」というより「絡んでいない」のが目を引くというべきか、終盤に至るまで、何故に平家物語が出てくるのか分からないのです。海竜様に関する小さな怪事件が次々起こる中で、まるでBGMのように……まるで無関係に平家物語が語られる。
劇中の登場人物たちもまた、
「海竜祭になんで『平家物語』なんだ?」
「よ…よくはしりませんが昔から そう…」

という会話を交わすほど、関係が分かっていません。
 
それが終盤、「あんとく様」という忌み言葉が出てくる。ここで稗田先生も理解します、
「そうか…海竜祭は安徳天皇の鎮魂祭なんだ。
 海で死んだ安徳天皇の霊が海竜になったんだ。
 だが 村人のこの恐れようは……?
……実体のない悪霊ならば、むしろ良かったのかもしれません。ここで物語はあの有名なクライマックスを迎えます。

見た目のインパクトと、「あんとく様! お許しを!!」という簡潔に脅威を伝える台詞に目が行きますが、この場面の背景に
 
二位殿 やがて
いだき奉り
「波のしたにも
都のさぶらうぞ」
と なぐさめ
たてまつって
ちいろの底へぞ
いり給ふ――
 
悲しい哉
無常の春の風
忽ちに花の
御すがたをちらし
なさけなきかな
分段のあらき浪
玉躰をしづめ
たてまつる
 
という「平家物語」の一節をあしらったことこそがセンス。また、ここに至るまでの話運びも巧みなので、ぜひとも全編を読んでいただきたいところです。
 
さて、長々と「海竜祭の夜」の紹介を書いてしまいましたが、このたび読み返したところ、ひとつ大前提が覆る発見をしてしまった。何故に平家物語なのかが終盤までわからないのがポイントのはずが、5ページ目にこんな場面がある。

「阿加摩神社です。ここの神主が海竜祭の祝もやるんです」……って、最初から「あかま神社」言ってた!! 現実にある「赤間神宮」を連想させる名前で、平家の歴史に詳しい人ならここでもう安徳天皇絡みの話だと察しがつくことでしょう。ほかにも「御神体は立派な宝剣」(=草薙剣)とか「祭は旧暦の三月二十四日」(=安徳天皇の命日)とか、この3コマにヒントが凝縮されている。
 
「海竜祭の夜」、わずか25ページの短編にキッチリと伏線が張られていることに、甚だ今さらながら感心した次第。加えて、上に書いたとおり、私は「百姫たん!」をプレーするまで赤間神宮の存在を知らなかったので、ひとつ巡り合わせのような面白味も感じたのでした。