東京駅の猫と七不思議

仕事で神保町に行ったら、ちょうど古本祭りの最中だった。

歴史の中の東京駅ものがたり

歴史の中の東京駅ものがたり

そこで手に取った本に、東京駅の猫についての記述を見つけた。
http://d.hatena.ne.jp/UnKnown/20121007
永田博著『歴史の中の東京駅物語』雪華社、昭和44(1969)年。購入価格500円。p144から「東京駅の七不思議」という小題を立てた記事がある。ただしこれ、ある日駅員が利用客に訊かれたものの「七不思議なんて言葉を聞いたことがない」、古参の職員たちに聞いても「だれもそんなこと知ってる者はなかった」ってな話で、そもそも七不思議なんてないという。それでも駅員たちが「そういえばあれなんか七不思議の一つにはいるんじゃないか」と皆で話し合った結果、七不思議のその二に列せられたのが「ねむりネコ」だった。

いまから三十年くらい前、東京駅の天井にネコがいるという話だが、どこにいるのだろう、とよく探していた人がいたそうだ。そのころ、その有名なねむりネコは、乗車口(いまの丸ノ内南口)にある駅長室の入口の上にあった。

木彫で、よくできていたので、だれか有名な人が作ったのではないかといわれたが、実際は釘かくしのために左官屋さんが道楽に作ったものだそうだ。昭和七年か八年ころ、朝日新聞がこのネコのことを取上げたので、いっぺんに有名になった。

駅長室の入口にあるだけでなく、一二等待合室の上にも三等待合室の入口の上にも駅長室の上にあるのと同じようなネコがあったといわれる。(木彫でなく石膏細工という人もいる)

しかし、このネコも戦災であとかたもなくなってしまった。日光東照宮のねむりネコは左甚五郎の名作の一つといわれるが、東京駅のは無名の左官屋さんの作である。この左官屋さんは、日光へお参りに行った時、左甚五郎の猫をみたのかもしれない。
(略)
あんまりよくできていたので、なにかと感違いして、お参りに来た芸者がいたそうである。

というわけで、『話』昭和8(1933)年4月号掲載の「東京駅物語」(高田晋)にのみ見られた(この記事は『東京駅の世界』かのう書房・昭和62年に採録されている)、東京駅の猫についてずいぶん詳しいことが分かった。
・作ったのはやはり「無名の左官屋さん」で「道楽に作ったもの」。木彫という前提で「石膏細工という人もいる」と書くが、左官屋さんの道楽なら普通に考えて鏝絵(こてえ)の類、漆喰細工だろう。
・形は日光東照宮の眠り猫を思わせるものだった。

つまりだいたいこの絵のような猫だった?
・昭和7、8年頃に朝日新聞が取り上げて「いっぺんに有名になった」。となると、高田晋のほうの「東京駅物語」が「東京駅の名物と云えば三匹の猫だろう」と書いているのも、新聞に取り上げられた後と捉えるのが自然だろう。
・そして「戦災であとかたもなくなってしまった」
現存しないのは確認済みだが、ここではそれがはっきり戦災によるものと書かれている。