小坂製錬小坂線の思い出

6月初めの東北旅行の話の続き。
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弘南鉄道大鰐線で大鰐に至った私は、JR線の特急つがるに乗って大館に移動した。特急を使ったのは何の贅沢でもない。列車本数が少な過ぎで選択の余地がないのだ。
さて、大館といえば小坂製錬小坂線の起点である。私がこれまでに乗った中で、文句無しのベストワンのローカル線がこの小坂線だ。
起点駅の大館は貨物駅の機能を備えており、単線のローカル私鉄には不釣り合いな広い敷地にタンク車を多数並べていた。もっとも旅客営業のほうはそれ相応で、ちんまりとした駅舎のある駅から単行〜2両編成のディーゼルカーが発着していた。大館を発ってしばらくは住宅の間を縫うように走るが、そのうち竹薮の中に分け入る区間もあって、田畑を過ぎてやがて山中へ。川に並行して河岸の丘上を行き、あるいは鉄橋で渡り……。
ここまででも、まず鉄道旅行の楽しみが短い区間に凝縮された路線だといえるのだが、最大のハイライトは終点近く、最後のトンネルを抜けたところだ。進行方向右手側の視界が開け、整然と家々が並ぶ小坂の町並みが眼下に広がるのである。列車は大きく弧を描きながら坂を下り、その美しい町の中へ入っていく……。あの気分、鉄橋だのトンネルだのを越えてきた最後に、およそ山中らしからぬ町並みが現れたときの驚き、そしてその町へと次第に近づいていくときの高揚を如何に伝えようか。
これは小坂線でしか得られない経験だ。私が実際に乗ったローカル線など大した数ではないが、路線の概要と地図さえあれば推し量れる。そもそも小坂の町というのが特徴的な存在だから、あのような町並みと鉄道との取り合わせは他に無いとわかる。
しかし、1994年に旅客営業は廃止。その後は貨物専用線として生きながらえていたものの、2009年に全面廃止となった。なお、ディーゼルカーは旅客営業廃止後、弘南鉄道黒石線に移ったが、黒石線もまた1998年に廃止されている(この頃はまるで「乗りに行くと廃止になる」ような状況で、かえって気持ちがローカル線から遠のくほどだった)。
全面廃止から既に4年、小坂線跡は果たしてどうなっているのか……。続く。

社宅街―企業が育んだ住宅地

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小坂というと日本最古の現役木造芝居小屋「康楽館」ばかりが有名だが、この本はそれを含めた「企業が育んだ住宅街」としての小坂を取り上げている(もちろん小坂だけではないが)。