再び北朝鮮が打ち上げたもの

4月の時点でこんなことを書いていたら……。

何もいちいちミサイルと言わず、「北朝鮮による「人工衛星」打ち上げ事案」と言えば良かったんですよね。はじめに、「あれはミサイルだ」という認識から始まって、でも人工衛星打ち上げであることも否定できないから、言い繕ううちにムチャクチャになったのでしょう。
http://d.hatena.ne.jp/UnKnown/20120413

今回は打ち上げに成功したからますますもってムチャクチャに。
「事実上」が「実験」に掛かる「事実上のミサイル発射実験」ならばOK、でもモノの事実はミサイルではなくロケットでしょ。元より弾頭を装備しておらず、海上なり地上なりに落ちる弾道を描かずに衛星軌道へ物体(笑)を持ち上げたんだから。
ツイッター上では浅利与一義遠(あさりよしとお)氏がこんなネタにしていました。

北朝鮮は、人工衛星と称する事実上の弾道ミサイルを発射し、人工衛星と称する事実上の人工衛星の軌道への投入に成功。
 
いや、事実上の弾道ミサイルと称する事実上の衛星打ち上げロケットを発射し、人工衛星と称する事実上の人工衛星を、事実上の衛星軌道に……

与太郎が「人工衛星打ち上げと称する事実上のミサイルが…」と、大家さんに報告に来て、延々と「人工衛星と称する、事実上の人工衛星が…」と、あくまで人工衛星ではない前提で人工衛星打ち上げの説明をするので話がややこしくなる落語、『光明星』。 二段オチの後、三段目がオチないのが落ち。

それにしてもまぁまさか成功するとは思ってませんでした。脅威というより驚異。



とか思ってたら、朝日新聞はとうとう開き直ったようです。

北朝鮮が12日に発射し、衛星の軌道投入に成功した「ロケット」について、朝日新聞はこれまでの報道と同様、「ミサイル」と表記します。ロケットと弾道ミサイルは技術的にみて、本質的な違いはありません。しかし、国連の安全保障理事会は2009年6月に出した決議1874で、北朝鮮に対し「弾道ミサイル技術を使ったいかなる発射」も中止するよう求めています。今回の発射はそれに相当するとの判断です。
(全文・12月13日付朝刊)

頭悪ぅ……。いや、言い訳するだけ他社よりマシか。「ロケットと弾道ミサイルは技術的にみて、本質的な違いはありません」? 何を言っているのかしばらくわからなかったが、これを書いた記者はたぶん、ロケットとはイコール宇宙ロケットだという前提に立っているのだろう。そうじゃなくて、ロケットはミサイルの上位概念なんだってばよ。
「今回の発射はそれに相当するとの判断です」、はい、その判断は妥当でしょう。でもさ、それがなんで「ミサイル」と表記する理由になるの? 「弾道ミサイル技術を使った宇宙ロケットの発射」だという判断でしょ? なぜ正しく「ロケット」と書かないんだ?
北朝鮮を擁護する義理なんて微塵もない。ただ、科学技術の用語に政治を持ち込んで欲しくない。「撤退と180度転進は戦術的に見て、本質的な違いはありません」と言ってるようなもんだぞこれ。