非実在青少年〜条例案のプレゼンと造語力

東京都の青少年育成条例改正案は、「非実在青少年」をも対象にしているのだという。案の内容以前にまず、この「非実在青少年」というまるで哲学用語のような造語に興味を覚える。
まず「非実在」という見慣れない、耳慣れない言葉を使うセンスを疑う。ここからまずわかりづらいというか、そもそも理解を拒んでいるかのように思える。なんというか一見して「実在しないものをどうやって取り締まるの?」との感想を抱く人が大多数ではなかろうか。
そして「青少年」。青少年、というから当然男性のことかと思いきや、どうも主に女性のことらしい。これがまた伝わりにくい。ジェンダーフリーの手前、性別を限定することができず、「非実在少女」とは言えなかったのだろうか。それにしたって、18歳を区切りとしているのだから「青年」を含まずに、「非実在少年少女」でいいだろうに。
内容以前に、まずこのネーミングではプレゼンは通らない。情に訴えかける力、感情の領域で共感を呼ぶ力がまず欠如している。心情的にこの条例案に共感を覚えるはずの、古い道徳観を墨守するタイプの人間は、「非実在青少年」などその字面だけで敬遠するものと思う。
ていうか「非実在青少年」、むしろオタク心に強く響くネーミングだよな。BLかラノベのタイトルだったら手を伸ばしたくなるような、「ひっかかる言葉」。ほら、なんとなく想像できるでしょ、美形男子が絡み合う耽美なイラストの上に書かれた『非実在青少年』のタイトルとか。あるいは『「非実在少女」のなんとか』とかいう縦書きタイトルの横に描かれた、水彩タッチのはかなげな14,15歳の美少女の姿とか。
ーー聞こえる…ヒロインの声が!! 私には、能登麻美子と思いきや戸松遥が演じているヒロインの声さえ妄想できる!!
と、ネタはさておき、現代は従来に増して、「条例案(法案)を通す戦略」としてネーミング力がシビアに求められるのではないか。本来アピールすべき層には届かず、案を敵視する層には響く言葉を造ってしまうなど、問題外である(いやまぁ、ちまたの反応と案の可否とは別問題ですけどね)。
対案を示すなら…「図画少年少女」くらいが妥当かなぁ。「太陽の季節」が対象にならぬようにか、非実在といいつつ小説は含まないし(対象は「視覚描写物」)。
え、なに? 「「図画少年少女」だってわかりづらいし共感が持てない」だって? そりゃ条例案自体の問題だから私に言われても。