読めよSFと乞食は言った

あるいは『記せよわが色紙、と警官は言った』でも可。

失踪日記

失踪日記

評判どおり面白い本でした。突如失踪してホームレスになるわ、拾われるように配管工になるわ、家に戻ればアル中で幻覚を見るわ保護入院となるわの凄惨極まりない自伝でありながら「何故にここまで?」と言いたくなるほどカラッとドライに面白く描きあげている。なんというか、作者の漫画家としての業の深さを思い知らされた。漫画の技術の面をみれば、ネームがおそろしく洗練されていて、衒ったところがないのに印象に残る名シーン、名台詞が目白押しだ。そのなかで、個人的な大ヒットがp80の5コマ。
……浮浪者の吾妻ひでおが捨てられていた本を拾うも、表紙を一瞥して「あ、オカルト」と投げ捨てる。その様子を見ていたヒマ人どもがいちいち「コジキが本拾った」「コジキが本返した!」と言うのだが、その本を見て「あれ、この作者俺最近信じてる人だー」などと言い出す。吾妻先生ふり返りもせず一言。
「お前らSF読めよ」

ホームレスとなってなおオカルトには一読の価値をも認めず、無批判に信じる者に「お前らSF読めよ」と言い放つ、この一徹さはどうだ。この姿こそSF者が目指すべき境地であろう。ま、私には無理だけど。大体、SF者じゃないしさ。