村上克司が「ガンダム」を産んだ

下書きのまま3年半ほったらかしだった記事を上げてみる。↑挑発的なタイトルだぜ〜とニヤニヤしていたのだが、今日びこれを挑発と受け取れるガノタってもう少数派だよね……。
[デザイン用語ガンダム]関連記事はタイトル左のタグをクリックしてください。



私よりも余程詳しい人がいそうなのに、何故かまともに俎上に上がらないプロダクトデザイン用語としての「ガンダム」について再び。

自動車デザインに関して80年代終盤頃から、多くは侮蔑の含みをもたせて「ガンダム」という言葉が使われるようになっている。ピークは90年代の三菱車で、歴代のランサーエヴォリューションがガンダム車の代表格だ。現代では、日産GT-Rガンダム的なデザインを意識したとメーカーが公言している。

一方、建築の世界にも「ガンダム建築」という用語があり、こちらは当初80年代中盤におけるポストモダン建築のバリエーションと位置付けられていたが、その後21世紀にかけても「ガンダム建築」の系譜はそれなりに続いたようである。

その80年代に製作された、文字通り「80」'sのヒーロー番組『ウルトラマン80』を観ていてふと思ったのだ。「UGMのメカってカギカッコ付のガンダム」じゃね?」と。

ウルトラマン80』で目を引くのが、それまでのシリーズと明らかに異なるメカデザインなのである。端的に言って「角張っていて分厚い」。これはぶっちゃけると、おもちゃを売るためにおもちゃメーカーの人間がデザインしたからである。バカにしてはいけない、このデザインラインは以後、いくつかの例外を挟みつつ、現代のウルトラシリーズにまで脈々と受け継がれているのだから。


UGMのメカの玩具は持っていないので、代理で『ウルトラマンマックス』のダッシュバード1号(左)。「80」のUGMのメカ、および主にPLEXがデザインした平成シリーズのウルトラメカはどれもだいたいこんな調子だ。「なぜ角張っているのか」「なぜ分厚いのか」そして「なぜ、冷静になってよく見れば(あるいは特撮ズレしていない人の目から見れば)とうてい飛べそうにないのに、飛べそうに見えてしまうのか」。色々と分析する価値はあると思う。ていうかこれデンジ推進やね。

右は『ウルトラマンタロウ』(1974)のスーパースワロー。どちらもおもちゃを売ることを重視した、飛行機としてあり得ない装飾過多なデザインなのだが、そのデザインエッセンスは全く異なる。UGMのメカは一言で言うと、そうカギカッコ付のガンダム」的なのだ。

自動車や建築で「ガンダム」と呼ばれる要素を備えたメカなのである。

つまり、プロダクトデザインの世界でいうガンダム」を生み出したのは、なんとまぁ、村上克司ということになるのである。

ガンダム」は玩具然とした設定・デザインから離陸してリアルロボットアニメという新たな地平を切り拓いたのに(←結果論ではあるが)、一般に「ガンダム」と認識された要素は玩具メーカーサイドから生み出されたものだとしたら、それは随分と皮肉な話だ。玩具の呪縛の逃れ得ぬ強さ、とでも言うべきだろうか。

古いアニオタの例にもれず、私は(安彦良和富野由悠季藤田一己たちへの同情において)村上克司が大嫌いなので、ここから先はあんまり掘り下げたくない。というか、掘り下げられるほど村上克司の功績に詳しいわけではない。どなたか天皇陛下万歳な人に、70年代終盤〜80年代の「ポピーの台頭、村上デザインの台頭」に始まり、80年代前半の「ガンダムブーム」を経て、1985年の「機動戦士Zガンダム」放映あたりで「ガンダム」という批評タームが自動車雑誌で使われるようになったデザイン史を整理していただきたいところだ。