「メキシコから来たペット」

メキシコから来たペット―アメリカの「都市伝説」コレクション

メキシコから来たペット―アメリカの「都市伝説」コレクション

宇都宮東武古書市で購入。840円。都市伝説研究の嚆矢というべき『消えるヒッチハイカー』(asin:4880082392)は当然の如く所有、続く『ドーベルマンに何があったの?』(asin:4880082406)も持っているが、その時点で既にネタ切れ感があり、3冊目のこれ以降は購入を控えていた。ていうか一連のブルンヴァン先生の著書はいずれ文庫になるだろうと思っていたのだが、未だにウワサにもならないねぇ。都市伝説がタレント本で認識されてしまっている今、せめて『消えるヒッチハイカー』だけでも普及版を出してほしいものだが。

さて『メキシコから来たペット』、予想していたことだが3冊目となるといよいよネタ切れ気味で寄せ集め感が甚だしい。ていうか『消えるヒッチハイカー』では都市伝説がそれぞれなぜ成立し、なぜそれが広まったか(「本当にあった話」として伝播したか)がそれなりに考察されていたし、『ドーベルマン…』はfoaf(フォウフ。「友達の友達が本当に体験したことなんだけど…」の、その人物)をたどったりしていたが、その点でも本書は底が浅い印象。
原書からいまひとつ足りない出涸らし的な本だったと思われるが、そのうえとにかく翻訳が酷い。学者の悪文の典型だ。
ネタ半分で挙げるならこの例。

イギリスの作家ダグラス・アダムスは、彼の小説『さようなら、魚よ、ありがとう』(ニューヨーク、ハーモニーブックス、一九八四年の中に、これと同じ伝承上の話を含め、さらに「ビスケットの包み」という独特のフレーズを組み入れさえした。この本は、彼の『ヒッチハイカーの銀河旅行案内書』シリーズの第四巻である。

『さようなら、魚よ、ありがとう』という翻訳の、内容との齟齬は仕方ないとしても("So Long and Thanks for all the Fish"、『さようなら、いままで魚をありがとうasin:4309462669)、『ヒッチハイカーの銀河旅行案内書』は酷い。『銀河ヒッチハイク・ガイド』(asin:4102196013asin:4309462553)の邦題で1982年に既に訳出されているのに。

ムカつくのは、オレオやキットカットの脚注では「アメリカの大手食品メーカー、ナビスコ・ブランズ社の発売するクリームサンドクッキーの商標。バニラクリームをココア味の二枚の黒いクッキーで」はさんでいる。発売されて八〇年にもなるというアメリカでロングセラーのお菓子。日本ではヤマザキナビスコ社より発売されており、CFには後藤久美子が起用されている。アメリカでの製品は日本でのものに比べると、やや色が黒くココア味が強い。」「三枚のウエハースをミルクチョコレートでくるんでいる。四つの凸状になった(四等分できる)タイプのものが代表的。日本ではネッスルマッキントッシュより発売されており、CFには宮沢りえが起用されている。」と不必要に細かいこと。この訳者にとって小説は菓子以下の存在らしい。
というわけで、読み終えるのに結構なエネルギーを要した本なのだが、それなりに興味を引かれる記事もある。特に「腎臓病患者のためのプルタブ収集」を取り上げた一節(p178〜)は、アメリカでは全くのでっち上げだったらしいが、日本には現に「プルタブ・アルミ缶で車いすを!」という活動があるわけで(環公害防止連絡協議会→)、伝説が先か活動が先か、それとも全く無関係なのか気になるところです。