ダークナイトライジング(ネタバレ超酷評)

ダークナイトライジング」のどこがダメって、まず単純に言ってメインの悪役が「ガスマスクかけたおデブちゃん」で、まるで魅力に乏しいところ。しかもただの怪力キャラだよ。トンズラーひとりのドロンボー一味がザコ部下率いて暴れてるようなもんだ。

イカレっぷり(あるいは行動原理)も中途半端で、ラーズ・アル・グールの後を継ぐ、的なことを言ってるんだけど、そもそもラーズ・アル・グールの理想とか目的がどんなんだったか覚えてないし。ていうか『ビギンズ』は師弟対決を基本構造として、そこで師弟それぞれのゴッサムに対する態度が対比されるからこそ、ラーズ・アル・グールもキャラが立ってたの。理想なんてのは「バットマンの師であること」の添え物だ。バットマンとなんの因縁も無いポッと出の悪役が、その師匠の名を口にしたってまるで話にならない。まぁ最後の最後で、愛にも等しい忠誠心が行動原理だとわかるんだけど、そこに至るまでが長過ぎるというか何というか。「実は黒幕はコイツでした〜! どう? ビックリした!?」のついでに行動原理も明かされちゃうようなもんだからなぁ。

ほとんど唯一の特徴といえるマスクも、導入部から散々「なぜ奴はマスクをしてるんだ?」と言われているから、物語のキーの一つかと思いきや、そんなことはないのだった。中盤で「治療の失敗が元で常時薬物を吸入しなければならないのだ」と理由が語られるんだけど、こんなありきたりな理由、フェイクだと思うぞ。だって、劇中一度もマスクに薬物を補充する場面とか無いんだから。なのにラス前のバットマンとの対決では、マスクをずらされて急に苦しみ出す。「ホントに弱点だったんかい!」と突っ込むわ。ヒーローものの怪人が弱点を突かれてうろたえる場面そのもので(実際そのとおりなんだけど)、ここがもう目を覆わんばかりに安っぽい。

もうひとりのメイン悪役、セリーナ・カイルもねぇ……。ベインほどの悪印象はないけど、ただの義賊で面白みに欠ける。『バットマンリターンズ』のキャットウーマンが「冴えないOLが追いつめられてひとたび死んで"変身"」という悲哀を背負っていたのと比べると、正直ペラいです。「恵まれない出生」とか、ただの設定としてそうなってるだけで物語に生きているとは言い難い。犯罪歴(「過去」)をデータベースから消せるソフトを目の色変えて欲しがるってのも、ストーリー全体の構造から浮き気味だった。ゴードンが過去に吐いた嘘によって街の運命を変えてしまったこととかとリンクしたり、対照されたりするかと思ったら、そんなこともなく。

そして主役のバットマン、ていうかほとんどブルース・ウェイン。この映画では破産し、アルフレッドにすら去られ、タンブラーをはじめとするウェイン産業の兵器は敵の手に渡って孤立無援の状態だ。それがどれだけ根本的なことか、作り手にはわかっていなかったらしい。ベインに破れて重傷を負ったブルース・ウェインは、ベインの故郷である牢獄に投獄される。それはいいとして、問題は牢獄の場所だ。中東かどっかの砂漠の中で、決死の覚悟で牢獄を脱出したとて「そこからどうやってゴッサムに戻るの?」という疑問が決定的に残る。これがいつものバットマンならアルフレッド(フォックスでも可)に連絡して迎えを送ってもらったんだろう、と全く気にならないけど、この映画にはそれが無い。だからほのめかし程度であれちゃんと別の説明を付けるか、ハナっからゴッサムからさほど離れてない場所にすべきなのよ。

脚本でなく演出の問題だけど、「命綱をしなかったので牢獄のギャップを飛び越えられた」という場面の緊張感の無さもひどいもんだ。ああ、今度は飛び越えられるな、と思っていると、その予想を裏切るようなハラハラ描写が一瞬も無いままやっぱり成功する。なんなんだあれは。とにかくこの映画、危機の到来も解決も予定調和的な展開が多い。「どうせすぐになんとかなっちゃうんだよな」「ここは失敗するな」と思っていると、スルっとそのとおりになってしまって、なんというか全体に弛緩している。予想外だったのはブレイクが歩き過ぎて橋を落とされちゃった所くらいだな。

そうそう、細かいところで気になるのが「足はいつ治ったの?」。バットマン復帰の際にギブスで固めて、以後は服の下では常にギブスを付けてるもんだと思っていたけど、牢獄に落とされてたときにはそのあたりの描写はなかったよね。背骨のついでに治したのか?

キャラクター以外でストーリーの核になるのは「核」。なんだけど、「核融合炉が完成したけど悪者の手に渡ると軍事転用されるから隠してました」って時点で「アホかー!」とズッコケる。「核融合」は兵器としてなら60年も前に水爆として実用レベルに達してるよ。「炉」に出来ないのが目下の問題で、ようやく完成したそれをわざわざ軍事転用しないっての。

だが、アホさ加減はそんなものではなかった。核融合炉を奪った悪役一味がちょちょいといじくって「これで爆弾になった」、対してウェイン産業の面々は「元あった場所に戻せば核融合炉に戻る」って……正気かこの話書いた奴。シズマドライブとか何とか、架空の新エネルギー炉にしたほうが、かえって自然な話になったと思うぞ。

その他、ベインが本部長の没原稿だと称して読み上げた話を信じてしまうブレイクとか、どうせすぐ時間切れなのに起爆スイッチを隠し続けようとする黒幕とか、展開は荒っぽくディテールは粗い。『ノーマンズ・ランド』がベースでそのうえ「法は虚妄だ」という話なのに合衆国政府がほとんど関わってこないとか、テーマも不明瞭。「武装国家ゴッサムは自ら定めた憲法の発効のため、アメリカ合衆国から独立する」みたいな話ならまだしもと思うのだが、ベインは市民を煽るネタとして裁判ごっこをやってただけだもんな。無政府主義というか無政府状態は理想でも何でもなく、何もかもきれいさっぱり壊滅させるつもりだったんだし。いや何がやりたかったんだ実際。

いろいろグダグダと書き散らかしたが、これらをさておいて個人的に最も許せないのは、新ビークル「BAT」のダサさ・あり得なさだった。逆に最大の見所は、雪の街をゆっくり走るタンブラー。次点はセリーナ・カイルが駆るバットサイクル。