行徳魚屋浪漫スーパーバイトJ

1話4ページとはいえ週刊連載を持っている漫画家が、それとかけもちでスーパーのバイトをしている、なんてのは『週刊少年チャンピオン』ならではではなかろうか。実際、漫画家の生活ってどんなんだろう? いつ終わるかわかんない月16ページの連載だけでは生活できない、といわれりゃなんとなく納得するけど。

行徳魚屋浪漫 スーパーバイトJ(1) (少年チャンピオン・コミックス)

行徳魚屋浪漫 スーパーバイトJ(1) (少年チャンピオン・コミックス)

編集者の「日記マンガがうけるらしいよ」という思い付き半分のオファーで始まったこのマンガ。ですがいきなり、日記マンガの定石を外しています。貧乏人が描く日記マンガは、たいがい貧乏自慢か散歩か趣味か、漫画家としての苦労がメインテーマになりますが、この作品はタイトルどおりバイトに重点を置いており、「お仕事もの」の要素が強い。日記マンガとしては実は結構な異色作です。

「大多数の読者が客として日常的に接触しているけれど、業務の実態は今ひとつわからない『あの仕事』の内情を描く」というのが「お仕事もの」の妙味ですが、スーパーの魚介売り場を扱った作品自体珍しいでしょう。あの、身近だけど縁遠い、生臭い職場の出来事を、リアルに(誇張は当然あるでしょうが)実体験に基づいて(ていうか日記マンガなんだけどね)可笑しく楽しげに描いている。マグロ解体ショーのテンション上がりっぷりとか、冬場の寒冷地獄状態などといった割と普通の内幕話から、客の変な質問に翻弄される話、果てはウミヘビを売る話など常識外れなエピソードも出てきます。

モデルがいいのかキャラも立っている。作中でも語られていますが、家族マンガみたいな世界を形成しています。売り場の主任は「無口だが本当はやさしいお父さん」、パートのササキさんは「明るいお母さん」、もうひとりのパートのコジマさんは男前の「アニキ」、後から入ってきたけど作者より優秀なミツイシさんは「きびしいお姉ちゃん」、バイトの先輩のおじさんヨシノさんは「色々捨ててるおじいちゃん」といった具合。

絵柄は少々古くて濃ゆい感じですが、線はパキッとくっきり描いていて、背景も手が込んでいて巧いです。細部のお遊びなども楽しく、『Dr.スランプ』の頃の鳥山明を思わせる作風なのですが……。ちょっと日記マンガらしくない(苦笑)。日記マンガというと普通、主線がヨレヨレだったり背景がろくに描き込まれていなかったりしても、それが「味」ってことで通用するじゃないですか。広義の「ヘタウマ」ってやつで。ところがこの漫画、妙にうま過ぎる。なんというか、手をかけ過ぎで、故に売れ筋の「ヘタウマ」に及ばない感じ。「本当にウマいのにヘタウマに及ばない」とは、少々気の毒な気もします。



「漫画脳」の企画にこっそり参加。あえて他所の感想読まずに書き上げたら、かなり内容がかぶっていて、しかも先方のほうがが面白くてちょい凹む。
http://blog.livedoor.jp/manganou/archives/51759296.html