カッコイイとは、どういうことさ

「カッコイイ」とは「ムダな性能」である。牽強付会だが「紅の豚」もそう言っている。言っている、多分。

ということで前回の続き。この書き手の誤解の甚だしきは、「お父さんはミニバンをかっこいいと思っていないが、奥さんのため子供のため、仕方無しに乗っているのだ」という思い込みである。馬鹿を言うな、仕方無しに選ばれる車がどうしてブームになる。

ミニバンブーム以前にはワゴンブーム、それ以前にはRVブームが、それぞれ少しずつ時期を重ねて起きていた。いかに愚鈍な…失礼、頑迷な自動車評論家であっても、ステーションワゴンやRVが実用性で選ばれたとは思っていないだろう。その時々で、最もかっこいい車だったのだ。

RV、ワゴン、そしてミニバン。車の機能のプラスアルファとして、過剰な「実用性」を求める流れはずっと続いていた。不整路を走るわけでないのにゴツいタイヤを履き、道路に飛び出してくるのはカンガルーでなく子供なのにアニマルバーで武装したRVで、スーパーにちょっと買い物に出かける。ステーションワゴンはそれよりマイルドだが、一体あのラケッジルームにどれほどの荷物が積まれたというのだろう。ミニバンは一見、そこからさらに実用に振られたようだが、3列シートだの回転対座だのがどれほど使われたのか。そもそも「実用的」なのか?

過剰な実用性は、非実用であり、そこにユーザーが見ていたのは実は「便利さ」ではない。「自動車によって生活が豊かになる」あるいは「カーライフが豊かになる」という夢である。「かっこいいライフスタイル」の夢が、車には託されていたのだ。

くだんの書き手が一体、「お父さんの好きなクルマ」として何を想定していたのかはかりかねるのだが、まぁベレGの想い出とワンセットで、ミニバンの対立項という点から考えて、スポーツカーかせいぜい大排気量のハイパーサルーンといったところだろう。

さて、ここで問題だ。「スポーツカーのどこがかっこいいの?」

「加速感がたまらない」「自動車の運転本来の楽しさが味わえる」なんてのは乗ってる人自身のフィーリングの問題であって、別に車がかっこいいわけではない。つまるところ、280馬力であったりニュルで叩き出したタイムが何分何秒だったり、そうした性能を備えているからかっこいいのだ。

高速道路でも100km/h制限なのに。

そう、ミニバンのシートアレンジもスポーツカーの280馬力も、「実は大して役に立たない、だけどそこにこそ価値がある」という点で等価値なのである。「ミニバンに乗って家族や仲間と出かけてキャンプサイトでバーベキュー」「スポーツカーに乗ってハイスピードクルージングで人馬一体感を味わう」…どっちも同じだ。傍から冷ややかに見れば、どちらも同じくらいにくだらなく、どちらも同じくらいの幻だが、どちらも同じくらい当人には大切なことだ。同じような「かっこいいライフスタイル」なのである。手前勝手な「かっこいい」の基準を全く正しいと思い込み、「お父さんの好きなクルマは他にあるでしょ?」と押しつけられてはたまらない。

ただし、ミニバンとスポーツカーとの間には決定的な違いがある。スポーツカーは「ムダな性能のために他の側面で我慢を強いられる」のだ。ひょっとするとこの書き手も、そこに「かっこいい」を見出しているのかもしれない。うーむ、己のマゾヒスト的嗜好をさらすことは果たしてかっこいいのか? 「高い金を払ってあえて不便な車を買う」という贅沢は見方によってはかっこいい気はするが……。でも、「乗りたくても乗れなかったクルマを、安い中古車で手に入れる」とか言ってるんだよな。