謎のリスト2009

今年最後のエントリは「謎のリスト2009」。4月の一時期に2日1本ペースでやっつけたので(何をだ)、11、12月にドカッと刊行されて、平均するとふた月に1冊にまでなりました。

安楽寄席探偵の事件簿

安楽寄席探偵の事件簿

タイトルどおり、安楽椅子探偵もののミステリプラス落語という趣向。落語ブームに便乗した(今も続いてるのか?)安易な企画のように思われそうですが、ミステリとしても落語を題材とした小説としても真っ当な仕上がり。
連作短編集の構成で、シチュエーションにどうしても制約がある安楽椅子探偵にもかかわらず、謎解きはなかなかバラエティに富んでいて退屈しません(まぁ色々と無理がある話もあるんですが)。落語についてのウンチク要素も、マニアの嫌味を感じさせず、かつ「へぇ」と思わせてくれる程度の巧い塩梅で、そちらのほうでも読者を楽しませてくれます。

もがり笛

もがり笛

社長が朝礼でする訓話みたいな内容のエッセイ集。ていうか実際、埼玉県川口市の配管工事業・かっぱ工業の社長が社内向けに定期的に発してきた訓話みたいなものを一冊にまとめたものだったり。配管工事業の業界事情が垣間見えるのが面白いです。その他、終戦後間もない時期の、少年期を回想してのエピソードなどの小説的な面白さも見所。

真夏に降る白い雪

真夏に降る白い雪

真っ当な青春小説。えー、あまりに真っ当過ぎて、完成度は低くないのですが、にもかかわらず誉めるのが難しい。
自分のために若くして事故死した兄の影を引きずり続けている主人公が、その傷を共有する親友たちと支えあって自分の進む道を見出し、そして赦しを得るというストーリー。ちょっと強引にオカルト要素が絡むのが「?」ですが、まずよくできてます。だけど誉めるのが難しい(苦笑)。
これがデビューとなるとかえってこの先プロとしての活動が難しそうですが、もうちょっと色々書ける作家だと思うのでがんばってほしいところ。

これまた社長の本。ですが業界も内容もまるきり違っていて、コンペイトウメーカーの社長による、コンペイトウのルーツを訪ねる紀行文です(ってタイトルから分かるでしょうが)。
なによりまず、このコンペイトウのルーツを訪ねる旅というテーマが面白い。そのため、観光地巡りではもちろんなく、といってビジネスやボランティアでもない、基本的には観光旅行ながらも、普通の日本人は行かないようなポルトガルの片田舎を訪ねるという独特の紀行文になっています。
フロイスさんの会社、大阪糖菓(株)は大阪府八尾市の本社と堺市に「コンペイトウミュージアム」を開いているそうで、関西を訪ねることがあったらついでにでも冷やかしてみたいところ。

ヘライ山 タキアの選択

ヘライ山 タキアの選択

SF的な背景設定を持つ異世界ファンタジー小説。舞台が異世界のうえに、とにかく無闇やたらに登場人物が多く、しかも章が変わるごとに主人公が変わるから、登場人物一覧を作りながら読み進めないとサッパリ話についていけません。
そこは素人小説にありがちな欠点なのですが、この作品がちょっと凄いのは「あれ? あの人はどこに行っちゃったの?」が無いこと。無闇やたらに多い登場人物、複数のストーリーラインが、終盤に向かってきちんと一つに収斂されていきます。よほどきっちりあらすじを組んでから本文にかかっているんだな、とそこは感心のしどころ(まぁ、にもかかわらずラストは全滅オチでガックリなんですが)。
普通の人にはすすめ難いのですが、異世界ファンタジーを自分で書いているような人には、良い点も悪い点もかなり参考になる作品だと思います。

走れ! 児童相談所

走れ! 児童相談所

これは良書。広く万人にお勧めできる一冊です。主人公の人物造形が色々と詰め込み過ぎだとか、説明台詞が過剰だとか、いかにもアマチュア的な部分もあるのですが、全体としては全く不満のない完成度の作品です。
児童虐待事件などのニュースでよく名前を聞く割に、実際の仕事は何をやっているのかよく分からない児童相談所の実態が、段階を追って具体的に詳細に小説仕立てで描かれる、という趣向。
完成度云々以前に、まずはとにかく面白い。各場面の描写、登場人物たちの基本的な設定と造形、その心理描写、全体構成、そして「職業もの」としてのウンチク要素と、いずれを取っても非常にハイレベルで、総じて不満のない完成度の作品といえます。文芸社には珍しく(←コラコラ)編集ががんばっていて、本文、解説的な部分、内心の声で書体を使い分けており、文字数的にはかなりのボリュームであるにもかかわらず、非常に読みやすく仕上がっています。
もちろん、主題となっている児童相談所そのものの魅力も大きく、児童虐待などの厄介な問題に果敢に取り組むホットさと、情に流されることなく正しく事態を解決に導くためのクールさとを併せ持つプロの姿は、かなりカッコイイ。この本はもうちょっと世に注目されて欲しいなぁ。