ジェンダー教育と三次元終了

ある時ふと気がつくと、着せ替え人形がなくなりかけていた。

タカラトミーの「リカちゃん」シリーズこそ健在だが、二本柱の一方の「ジェニー」は昨年12月を最後に休止状態、その因縁のライバル「バービー」も本家マテルの日本法人は撤退、新たな販売会社の元で仕切りなおしたが販売店展開は大幅に縮小している。

TVキャラクター商品をみても、バンダイが「プリキュア」タイトルで着せ替え人形をラインナップしていたのは3作目「SS」まで。昨年そして今年の「プリキュア5」では、PVC製のマスコット的な商品のみだ。一方のタカラトミーも、昨年秋からのタイトル「しゅごキャラ!」のみならず、一昨年来の最重点コンテンツ「きらりん☆レボリューション」にさえ着せ替え人形をラインナップしていない。

着せ替え人形には「女の子らしさを伸ばす情操教育」という大義名分もあったし、それを抜きにしても安定した需要のある定番商品だった。それが何故近年になってこれほどまでに縮小してしまったのだろう。

原因のひとつとみられるのは、「オシャレ魔女ラブ&ベリー」のヒットと、そのフォロアーの存在である。モニタ内のキャラクターを、手元のカードのコスチュームやアクセサリで着飾るラブベリは、実際その企画の出発点からして「着せ替え人形」だったという。

だとすれば、アイドルマスターよりも初音ミクよりも先んじて、女児の世界で「三次元終了」が起きていた、といえないだろうか。現代の女児たちは、三次元の着せ替え人形よりも、モニタ内の3DCGのキャラクターに対して強い思い入れを抱いているのだ。いや、アイマスやミクの場合は「三次元終了」はシャレでしかないのに対して、こちらでは既に現実なのだから、事態はより進んでいるともいえる。

そこで気になるのは、女児たち自身がドールではなくカードを欲しがるのはいいとして、「なぜ親は女児に着せ替え人形を与えなくなったのか?」である。先に触れたとおり、着せ替え人形には「女の子らしさを伸ばす情操教育」という大義名分があった。人形の着せ替え服のラインナップには各時代のジェンダー意識の変化が現れている、とみる研究者も少なくない。

ならば、着せ替え人形そのものの市場規模の縮小は、あるいはジェンダーフリーの進展なのだろうか? noだとしたら、着せ替え人形に代わるジェンダー教育のツールは何なのだろう? ラブベリはその側面も引き継いでいるのかもしれないが、今ひとつピンとこない話だ。

マーケットリサーチのみならず、ジェンダー研究の側面からも、着せ替え人形の興亡そして「三次元終了」は光を当てるべきテーマであろう。

もっとも、女児玩具カテゴリの着せ替え人形は滅びかけても、ドールそしてドール服は趣味のものとして生き続けている。ジェンダーの問題を含めて、価値観の多様化の一側面なのかもしれない。


……と、ひとしきり真面目な話をすると、オチをつけずにいられない悪い癖。オチ要員はドールではなくフィギュアカテゴリのダイキ工業の「山田屋の剣士さん」(再び)、服はアゾンインターナショナルの「小悪魔シフォンワンピースセット 黒」。
実は「プリキュア5」にも、女児玩具ではないドール商品がラインナップされていたりするが、あれはどんな層をメインターゲットに想定しているのだろう…。