トラック野郎は差別語

「輸送経済」という物流業界紙の、11月27日付1面にこんなコラム記事が載っていた。

かしこ・あほう
池上彰さんが、読売新聞のナベツネさんに親書を送った。「福田・小沢会談の仕掛人は渡辺氏」と各紙が報じたのに、読売だけは沈黙。「新聞記者は、記事を書くのが仕事です。政界の仕掛人を演じることは、記者の仕事を逸脱していませんか」と。痛快な論評です。池上さんに乾杯。ところが真後の同じ朝日新聞が「トラック野郎」という見出しの差別記事をのせた。許すまじ。

全体の内容についてはさておき、気になるのは「「トラック野郎」という見出しの差別記事をのせた」のくだりだ。「許すまじ」とは穏やかでない。果たしてどんな記事だったのだろう?
くだんの「池上彰の新聞ななめ読み 『福田・小沢会談 拝啓、渡辺恒雄さま』」が掲載されたのは19日付朝日新聞夕刊。その真後(シンゴ? まあと?)というから翌日から数日後の記事だろう、と探してみる。すると、11月21日付朝刊に「トラック野郎」という見出しの記事があったが…。以下に全文を引用する(読み飛ばし推奨)。

トラック野郎を救え
元請け圧力・ガソリン高…
 国交省、年度内に対策
 ガソリンの値上がりや、荷主、元請けからの不当な値下げ要請に苦しむ下請けのトラック業者を救おうと、国土交通省は今年度中に、適切な運賃設定を促すガイドラインをつくることを決めた。学者らの検討会を立ち上げ、燃料の値上がり分を運賃に加算する「燃油サーチャージ」の導入などを検討する。
(佐々木学)
 元請けから下請けへの不当な「値引き強要」などを禁じる下請法が04年度から運送業界に適用されて以来、同業界は公正取引委員会から立て続けに勧告を受けている。
今年度もすでに3件。10月に勧告が出た横浜市のケースでは、元請け業者が荷主からの値下げ要請を受けて、下請けのトラック業者約100社に計約5300万円減額させたとされる。ほかに、「協力金」「管理料」などの名目で下請けにキックバックを迫ったケースもあるという。
このため国交省は、荷主を含めた業界の取引全体を見直す必要があると判断。適切なコストを計算するプログラムを提示し、運賃を改める場合は口頭ではなく契約書を交わし直すなどのルールも明確にする。また航空の分野では一般的な「燃油サーチャージ」を導入し、燃油高の負担が荷主らに分散する仕組みなどを目指す。
(朝日新聞・2007年11月21日朝刊)

内容はむしろ陸運業者に同情的なほどであり、いささかの差別も感じさせるものではない(ガソリンじゃなくて軽油だろ、というツッコミはあるが)。荷主企業や元請け業者には耳の痛い部分もあるだろうが、それをもって差別的とは言えまい。
うーむ、どうやら「輸送経済」のコラム執筆者は、見出しに「トラック野郎」と書かれていたことがお気に召さず、内容に拠らずに「差別記事」と判断したらしい。子供じみているというかなんというか、これではまるで名無しどもの脊髄反射のレスだ。
さて、そうなると興味深いのは「トラック野郎」とは差別語だ、という認識である。朝日新聞の佐々木学氏も、また我々も、トラックドライバーたちや陸運業者を蔑むつもりで「トラック野郎」と言ったりはすまい。しかし一方、「トラック野郎」という語からは「気はいいけれど喧嘩っ早い荒くれ者」というステレオタイプな人物像や、「道交法なんて関係ねえ」と主張するが如きデコトラ、そして日常的な速度超過と過積載が連想される。業界挙げてコンプライアンス(法令遵守)が叫ばれる昨今にあっては、当人たちには不快な表現なのだろう。
「その言葉が示す人たちが、そこに蔑視を感じたならそれは差別語である」という原則でいえば、トラック野郎は既に差別語だと言えるのだ……もっとも、コラム執筆者ではなくトラックドライバーたちがどの程度「トラック野郎」に蔑視を感じているのか、確かめる必要はあるが。
いずれにせよ、今後、何か「言い換え語」が生まれる可能性も小さくない。それが用語として定着するかどうかはさておき、とりあえずその需要は間違いなくある。「トラック野郎」が今後どうなるか、興味が持たれる。