/五島勉以前のノストラダムス#2

以前、『妖怪人間ベム大全』(asin:4575299596)に関して、ベストセラーになった『ノストラダムスの大予言』が出版された1973年にはるかに先立つ1967年に、「妖怪人間ベム」の絵コンテ中に「ノストラダムス」の名が書かれていることを取り上げた(2007-03-28「妖怪人間とノストラダムス」)。そのときに私はこう書いている。

この回の放映は1967年12月。五島勉の『ノストラダムスの大予言』が世に出た1973年11月の6年も前だ。放映当時はまだ流行していないのである。いや、それどころか、ノストラダムスなる人名(単語)を知る者もごく限られていたのではないか?
調べてみると、1957年の黒沼健『謎と怪奇物語』(新潮社)を嚆矢に、日本でもポツポツと予言解説が紹介されていたそうだ(参考「ノストラダムスサロン」内「日本のノストラダムス現象」)。なるほど「妖怪人間ベム」のスタッフともなれば、そのあたりを読んでいても不思議ではないだろう。

このリンク先、「日本のノストラダムス現象」も「ノストラダムスが一般に知られるようになったのは、言うまでもなく空前のベストセラー『ノストラダムスの大予言』以降」としているが、どうもそれ以前にも、いわゆるクリエイター層には案外と知られていたように思える。
というのは、先日購入した雑誌『フィギュア王』118号(asin:4846526976)中のことだ。脚本家・上原正三は『ウルトラセブン』(1967-1968年)の没脚本「宇宙人15+怪獣35」を回想してこう発言している。

今回、掲載してもらった準備稿は、幕開けのセブンとバルタンの戦いとか、中盤の「ファイト・ファイト作戦」とか、全体の流れと見せ場は僕が書いた。そこへ実相寺さんが、基地が停電して照明がろうそくのみの場面とか、ノストラダムスの大予言占星術などの神秘的な要素を盛り込むとか、実相寺色をつけた。そういう共同脚本です。
フィギュア王』118号p34-35)

そしてp50、その脚本「宇宙人15+怪獣35」にはソガ隊員の台詞としてこう書かれている。

ソガ「いいかい、今日この事態を四百年も前に予言した人がいるんだぜ。四百年も前にだよ。彼の予言書にはこう記してある……「その日、天から恐ろしき力持つ王現われ、世界を支配するようになるであろう。まがまがしき犠牲か、おどけふざけを見るであろう。死人が墓から現れてくるだろう……」
(略)
アマギ「ソガ、お前は、その四百年前の予言とやらを本当に信じているのか?」
ソガ「ああ、信じたいね。ノストラデーマスは第一次世界大戦第二次世界大戦、それだけじやない、日本に原爆が投下されることまでピタリと予言してるんだ、今から四百年も前にだよ……(略)

第一次世界大戦第二次世界大戦のような既に起きたことだけでなく、世界がこれから迎える終末の予言の解釈が語られたり、原爆投下という言ってしまえば日本ローカルな予言が語られるあたりに、後に五島勉が巻き起こした終末論ブームの萌芽が感じられる。
フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』「ノストラダムス現象」の項を参照すると、黒沼健が活発に予言解釈の紹介を行っていたそうで、おそらくは実相寺昭雄もその著作に影響を受けたものと思われる。あるいは黒沼本人との交流があったのかもしれない。
「黒沼のノストラダムス関連の原稿は、『予言物語asin:4309471196』にまとめられている」とのこと。絶版ながら古本は1円から入手可能なので、ああ、読んだほうがいいのかなと思うが……さてどうしよう。
閑話休題、『妖怪人間ベム』のケースは絵コンテ中に書かれながら本編ではカットされた台詞、『ウルトラセブン』のケースは没脚本のなかの台詞と、奇しくもいずれも世に出なかったのだが、ひょっとしたら同時代の他のTV番組でノストラダムス(もしくはノストラデーマス)を取り上げたものがあるのかもしれない。研究の進行が待たれる。