名前=差別化

古めかしいボンネットタイプのトラックに対して、鼻先が突き出ていない「ふつうのトラック」を何と言うか? キャブオーバータイプと言うのだが、この名称、ごく一般の人には知られていないかもしれない。ボンネットタイプがほぼ絶滅した今、あえてキャブオーバータイプと呼ぶ必要がないからだろう。キャブとは運転台のこと。運転台がエンジンの上にあるからキャブオーバーだ。
では、古めかしいボンネットタイプのバスに対して、鼻先が突き出ていない「ふつうのバス」を何と言うか? キャブオーバータイプ……では不正解である。ふつうのバスはエンジンが車体後部にレイアウトされており、リアエンジンタイプと言う。一時期はキャブオーバータイプのバスも存在したが、これは一部マイクロバスを除きすでに絶滅している。
『60年代 街角で見たクルマたち アメリカ車編』(ISBN:4895224473)という、並外れてマニアックな自動車の本を読んでいて驚かされたのがこの間違いだ。P6の写真解説に「今は都庁の後に近代的な「東京フォーラム」が建ち、バスもキャブオーバーとなった」と書かれているが、そこに写っているのはキャブオーバーのバスではなく、リアエンジンの「ふつうのバス」。
他の解説は恐ろしいほど細かく、マニアックなだけにこの間違いはひときわ目立つ。これはおそらく、トラックの場合の「ボンネットタイプ」対「キャブオーバータイプ」という差別化が念頭にあって、「ボンネットでない、ふつうのタイプだからキャブオーバーだ」と意味もわからずに書いてしまったのだろう。
名前とは意味以上に差別化なのだ、と改めて知る思いなのだが……、それにしたって専門家にはお粗末な間違いだ。