謎の村雨くん

8週めにして謎のセンターカラー。読者の反応がまだ判然としない段階でのセンターカラーは珍しくはないが、例えば「タカヤ」は金未来杯優勝による特権、あるいは「べしゃり」はベテラン優遇策だと理解できた。でも、これは一体何故?
話のほうは、もうひとりの忍者、じゃなくてスパイか。世襲制のスパイって何だよ一体? しつこいようだが「スパイズファミリー」はそこらへんがちゃんと気にならないようになっていて非常に巧い。ええと何の話だっけ。そうそう、もうひとりのスパイが登場して、「J・ボイドの遺産」がいよいよクローズアップ……って、だからそれは「スパイズファミリー」だっての。いいかげんにしろ。まぁなんだ、もうひとりの、本来は敵対する立場でないスパイ・楓が登場して、下克上とか言ってたら返り討ちにあいました、クナイは強いです、という話。
一言で言うと、物語の核が無い。家系偏重のスパイがいても別にいいんだよ、その『家』が代々どんな「国を守る活動」をしてきたのか、本来の敵は何なのか、おぼろげにでも示しているならば。
ところがこのマンガ、ただひとり変なオヤジがいるだけで、そもそも『家』がどんな存在なのかを示していない。だから「クナイは旧態依然とした『家』を解体して自我を確立を志す」という古典的な成長物語にすらなれない。「クナイは自我を優先し、楓程度なら一方的にぶちのめすけれども、それはそれとしてやっぱりオヤジは怖いしスパイの使命とかあるので正体隠しの小細工を続けます」という、どこへ向かうのかわからない話になる。
クナイにとって『家』の抑圧がどんなものかを示さないから、その陰に押しやられてきたという楓の恨み言も全く空疎に響く。村雨家の正統たるクナイの位置付けがどうにも不明確なうちに、それとの対比によってキャラを立てようとするから、何を言おうが気の毒だなとも、悪い奴だなとも思えないのだ。ついでに、強いとも凄いとも思えないうちからクナイが一方的にボコってしまうので、クナイが強いようにも見えず、ただ「クナイは人の話を聞かない奴」という悪印象ばかりが強く残ってしまう。
コメディならばこれでもいいのだが、雰囲気はひたすらシリアス風でちぐはぐ。まったく、作者は何がやりたいのやらである。今回の誉めるところ? 神林長平リスペクトかな(笑)。いやいや、あの「高速言語」というアイデアに、「忍者言語」という設定を付加したセンスはまず面白いと本気で思っています。