関谷ひさし「イナズマ野郎」

「車上童」に続いて軽自動車が主役のマンガを取り上げてみる。

1968年に描かれたカーレース・マンガ。これまで未読、それどころかタイトルさえ知らなかったが…。

関谷ひさしの漫画は好きだったんだけど、単行本は買ったことがなくて、果たして今読んでも楽しめるかどうか、試してみたくもあったのね。いや、楽しい!面白い!実はこれも「子供読者を置いてきぼりでディテールを描き込んじゃってる」漫画で、約300ページ中の前1/3の主役がN360なの。

ほとんど説明なしに、ロータス7やコブラは出てくるし、中盤のフォーミュラカーは、まんま1966年のイーグル!終盤は当時のグループ7のエルヴァは出るわ、シャパラル風はでるわ、子供読者にはわからないのをいいことに、好き放題。いいなあ。そして関谷ひさしの描く女の子の表情がとても好き!

https://twitter.com/Mossie633/status/452457508351639552
https://twitter.com/Mossie633/status/452458689253752833

という岡部いさく氏のツイートを読んで興味を持ち購入した。
 
いやこれ、ディテールの描き込みだけでなくストーリーまで妙にリアルですよ? 同時代を代表するレースマンガ(アニメ)、「マッハGoGoGo」のデタラメさ大らかさを思うとオーパーツ級だ。

なにせ主人公たちの最初のハードルは「スポンサーを見つけること」。主人公の稲妻五郎(スゴイ名前だ)は腕には自信があるものの、肝心のマシンは軽自動車のホンダN360だからどこへ言っても相手にされない。しかし「これがきみのいう世界一はやいレーシングカーかね!!」「いァもちろんクラス別での話ですけど」という会話があるくらいで、最初は新人らしくそのNコロでミニカークラスにエントリーするのでした。ほら、ムダに妙にリアルでしょ?

また、ライバルとしてステレオタイプなイヤミなお坊ちゃんキャラ・弾光が登場するんですが、ソイツの分析では、練習走行のタイムで五郎に負けるのはドライバーの腕の差ではなくマシンの違い、だという。え? 同クラスで、車種も同じN360で、なのにマシンに差があるの? ……そう、厳密にはマシンの差ではなくてメカマンの差なんですね。光坊ちゃん、「これからレース活動をつづけていくにはすぐれたメカニック(整備士)が必要だ」てなこと言って、五郎の仲間の天才メカマン・北原を引き抜こうとします。

ひと悶着あって五郎が男らしいところを見せて、光のN360も同じ性能に改造してやった上でレース本番となるのですが、勝つのはやっぱり五郎。ここまできたらもう「ドライバーの腕の差で勝った」でいいだろうに、「性能はおなじだがあとのめんどうがみきれなかったのさ。つまりあちらの整備員のうでがわるかったってことさ」とダメ押し。この時代の少年マンガで、裏方というべきメカマンをこれほどフィーチャーした話って珍しいのでは? 

まぁちょいとお高いし印刷は荒いし、根本的な古さは如何ともし難いので、決して人に勧められる作品ではないのですが、なかなか新鮮でした。