「コロンブスの卵」

風立ちぬ」で気になったのは、ひとつは草軽ホテルが登場するのに草軽電鉄が登場しなかったこと。もうひとつは三菱重工業名古屋航空機製作所本館が登場しなかったこと(九試単戦が飛んで実質終わりなのでまだ建っていない)。
そして「白馬の王子様」と「コロンブスの卵」。あの時代にこうした言い回しがあったのか? という疑問だ。
前者はさておき「コロンブスの卵」については、その歴史をまとめてくれたサイトがある。日本以外では実は「コロンブスの卵(Columbus's Egg)」は知られていない、という意外な事実が目を引くが、さてではなぜ日本では知られているのか?

*「コロンブスの卵」について
我が国の「コロンブスの卵」の説話は、戦前の1921年発行の第3期「尋常小学国語読本」第8巻 第19章に4年生用教材として登場し、1933年からの第4期にも第8巻 第22章に収録されたが、1941年からの第5期には削除されている。
 
http://homepage3.nifty.com/takakis2/columbus.htm

堀越二郎1903年生まれ。尋常小学校に通っていたのは1909〜14年なので、まず「尋常小学国語読本」では読んでいない。「コロンブスの卵だ…」と賞賛したのは堀越でなく本庄季郎かそれ以外の同僚だったが、歳は離れていないのだから同様である。ていうか七試単戦と九試単戦の間の頃だから1933年前後のことで、1921年に小学4年生だった人はまだ大学を卒業できておらず、三菱の設計部門にいるはずがない。
もちろん、「上記URLで引用されている鈴木哲氏の調査が甘く、実は「尋常小学国語読本」以外の何かで決定的に広まっていた」とか「教科書に載ったところ、それを使っている子の親にも読まれ、数年のうちに広く人口に膾炙した」……という可能性もあるにはある。しかし、「小学校の教科書以外で当時の一般市民がコロンブスの伝記に触れる機会があったのか?」とか「どれほどの『いい話』だろうと、子供の教科書に載っているものを何者かが広めたりするか?」といった疑問に行き着いてしまうのだ。
やはり、あの時代に既に広く知られていた可能性を探るよりも「風立ちぬ」スタッフのリサーチ不足と理解するのが良いだろう。4、5年程度というわずかなズレだし、かなり重要度の低い一言だから作品を非難するほどのものではないけれど、観客としてこういう些細なディテールにこだわるのもまた一興と思う。