キネ旬総研エンタメ叢書 「おもしろい」アニメと「つまらない」アニメの見分け方
- 作者: 沼田やすひろ,金子満
- 出版社/メーカー: キネマ旬報社
- 発売日: 2012/03/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「13フェイズ構造理論」という批評理論を基礎としているが、理論自体の説明は概略程度にとどまり、それを使って個別具体的に作品を分析していくのがメインとなっている。理屈リクツで固められるよりは読みやすいのだが、その半面「観たことのない作品についてそれをやられても…」という難点がある。結局のところ、イメージがつかめないのだ。私はあいにく、「ラピュタ」も「ゲド戦記」も「トイストーリー」1〜3も「のび太の人魚大海戦」「新・鉄人兵団」も「Fate/Zero」も「セーラームーン」も「ピングドラム」も観ていないので、非常に困ってしまった。
「心が震えた」式の感想文でなく、また「当時の若者の心情を反映して」云々の社会背景等とも関係なく、批評理論に基づく分析だからエモーショナルな話は全くと言っていいほど無い。著者の感動が伝わってくる部分といえば、「シリーズ全体を通して分析すると、実はこれほど巧妙に構成された仕掛けになっていた」すげえぜ! という、出来の良さに対する感動である。だからこの本には、読み物としての面白さは希薄だと言える。
また、著者も問題点だと気付いているだろうから批判は避けるが、「リマインダー」において、この手法は普遍的な理論たり得ていない。例えば、幾原監督が作品に仕込んでいる、フロイト心理学に基づくリマインダーだ。確かに監督は、それらをそうした意図によって仕込んでいるだろうが、では視聴者はその意図どおりにリマインドしているか? という問題である。
これらが先に「クリエイター志望者にこそ薦めたい」と書いた理由で、逆に言うと、日頃ただ漫然と視聴するだけのアニヲタにはあまり面白い本ではないだろう。
閑話休題、興味深いのは、こうした分析的な手法によって「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」「BLOOD-C」を高く評価していること。私はどちらもこれまた未見で、著者の言うことにはかなりの説得力を感じるのだが、市井の評価といえば前者は「最終回でズッこけた」、後者は「最初から最後までサッパリ惹き付けられなかった」が多いようだ。そこにあるギャップを検討すれば、「見分け方」はもう一段洗練されるのではないだろうか。