70年代のクルマと社会

Dororonえん魔くん メ〜ラめら』のいわゆる「昭和ネタ」「70年代ネタ」に対しては、「しつこい」「やりすぎ」といったネガティブな感想が多々見られるが、時代考証の難点を指摘したものがない。実際にあの時代を生きていたはずの人さえ、ただ「懐かしい」と楽しんでいるケースがほとんどだ。
 
私もまぁ、青筋立てて怒るほどの話ではないのだけれど(というか怒るより前に視聴を止めた)、誰も指摘しないというのもどうかと思い、特にクルマ社会に関する描写の問題点を具体的に上げてみる。



60年代後半、日本は狭義モータリゼーションを迎える。自家用車が爆発的に普及し、道にあふれ、消費されるようになった。「えん魔くんめ〜らめら」アバンタイトルにおいて、スーパーカー妖怪の傍らに描かれた女性の元ネタ、「オー、モーレツ!」はそんな時代を代表する1969年の石油会社のCMだ。
 
一方、自動車の増加は交通事故の増加を招き、交通戦争が激化する。そんな状況を可笑しくも哀しく歌ったのが1970年のヒットソング左卜全老人と子供のポルカ」だ。第1話でハルミが歌ったのは「ゲバゲバ」(=ゲバルト=学生運動)の1番だけだが、2番で「やめてけれ」と訴えるのは「ジコジコ」。交通戦争の時代にあって「事故はもうやめてけれ」と、老人と子供の立場から訴えたのである。
 
そんな状況が変わったのが1973年の(第一次)オイルショック、そして1975年から本格化した排ガス規制だ。「えん魔くんめ〜らめら」は第1話にオイルショック関連のニュースが描写されていることから、74年のことと判断される。
 
オイルショックにより、燃費の悪い車や遊びで車を乗り回すことが社会の敵のように扱われ、排ガス規制によって車はパワーとスピードを失う。その反動からスーパーカーに対する憧憬が高まった。そして1976〜77年にスーパーカーブームがピークを迎えた。
 
「えん魔くんめ〜らめら」の時代考証がデタラメだ、というのは、単純に「その時代にはそれはまだ無かった」という話ではないのである。
・60年代末のモータリゼーション(を代表するCM。ちなみに1970年には既にそのアンチテーゼ、「モーレツからビューティフルへ」と謳うCMが放映されている)
・60年代後半〜70年代の交通戦争(を歌った歌)
・1973〜74年のオイルショック
・1976〜77年のスーパーカーブーム
物事には順序がある。これらは同時にはあり得ないのだ(モータリゼーションと交通戦争は表裏一体であり、「どちらの声が強いか」のバランスの問題ではあるが)。それをまぁ、「えん魔くんめ〜らめら」は無邪気に「70年代」というくくりで全部まとめてしまっている。
 
こんな浅い理解の上に、どれほど70年代キーワードを散りばめようが、表層的なものにしかならない。なのに無闇やたらとその手のキーワードを入れてくるものだから、辟易してしまうのだ。時代考証を求めるような作品ではないが、せめて「70年代キーワードによってどのような作品世界を築くのか」は固めた上で、制作に当たってほしいものである。



とまぁこんな感じで。
あと、小学生の女の子がひとりで銭湯に行っているというのも不自然なのだが(どんなに控えめに言っても「70年代的情景」では決してない)、裏設定か今後の展開で「実は片親で貧しい暮らし」とか語られるかもしれないので不問。観ないけど。