首相への悪意に満ちた酷い書き出し

ていうか書き出しと記事の主旨とが異なってるんですが。

福島第1原発 東電、ベント着手遅れ 首相「おれが話す」
http://mainichi.jp/photo/news/20110404k0000m010149000c.html

 東日本大震災から一夜明けた3月12日午前6時すぎ。菅直人首相は陸自ヘリで官邸屋上を飛び立ち、被災地と東京電力福島第1原発の視察に向かった。秘書官らは「指揮官が官邸を不在にすると、後で批判される」と引き留めたが、決断は揺るがなかった。
(以下略)

毎日新聞 2011年4月4日 2時33分(最終更新 4月4日 8時46分))

……とここまで読むとあたかも「秘書官が引き留めるのも聞かず、状況がわかってないワンマン首相がパフォーマンスのため現場に出かけた」かのようにみえる。
ぎっちょんところが、記事の主旨はそうではない。

 しかし、事態の悪化に官邸は東電への不信を募らせる。菅首相は11日夕、公邸にいる伸子夫人に電話で「東工大の名簿をすぐに探してくれ」と頼んだ。信頼できる母校の学者に助言を求めるためだった。

 11日午後8時30分、2号機の隔離時冷却系の機能が失われたことが判明する。電源車を送り込み、復旧しなければならない。「電源車は何台あるのか」「自衛隊で運べないのか」。首相執務室にホワイトボードが持ち込まれ、自ら指揮を執った。

 官邸は東電役員を呼びつけた。原子炉の圧力が上がってきたことを説明され、ベントを要請した。しかし東電は動かない。マニュアルにはあるが、日本の原発で前例はない。放射性物質が一定程度、外部へまき散らされる可能性がある。

ちゃんとやるべきことやってるじゃん、菅首相保安院経由の東電の報告を鵜呑みにせず別の人材を頼む、自衛隊の出動等の検討について自ら指揮を取る、東電にベントを要請する……。
東電が「一企業には重すぎる決断」と言えば、「翌12日午前1時30分、官邸は海江田万里経産相名で正式にベントの指示を出した」という。つまり「責任は官邸がもつからさっさとベントしろや」ということだ。
なのに保安院は尻が重く、東電は指示を聞かない。なので業を煮やして「東電の現地と直接、話をさせろ。ここにいても何も分からないじゃないか。行って原発の話ができるのは、おれ以外に誰がいるんだ」という次第。
えーと、非難すべきは100%東電(と、何もしてない保安院)であって、首相官邸にはなんの落ち度もない気がするんですが。少なくとも、この記事に書かれている範囲では。
「視察のせいでベントが遅れたのでは」と国会でも言われていたが、前夜(未明)のうちに指示を出していたのなら非難するいわれはない。これも結局、一刻を争う事態だったのに、「首相が視察に来るから」と場を取り繕うためベントを先延ばしにした東電の過失じゃないのか?
無論、「事実この記事のとおりだった」と鵜呑みにはできない。
問題はそこでないのだ。
記事全体を読めば、「首相は東電を信用せず、やるべきことをやった」という主旨なのに、「おれが話す」という文言を抜き出して見出しにし、さらにリードには「秘書官らは〜引き留めたが、決断は揺るがなかった」と配して、あたかもワンマン首相の独断のように演出していることが問題なのだ。
現に爆発した、という結果を踏まえての、以下のくだりも悪意に満ちている。

「総理、原発は大丈夫なんです。構造上爆発しません」。機内の隣で班目(まだらめ)春樹・内閣府原子力安全委員会委員長が伝えた。原発の安全性をチェックする機関の最高責任者だ。
(略)
 首相は官邸に戻った後、周囲に「原発は爆発しないよ」と語った。

これでは菅首相と班目委員長が無知な道化だ。しかし、班目委員長がなぜ「爆発しません」と言ったかといえば、「視察の前に、(ベント)作業は当然行われていたと思っていた」から。これもやはり、着手していなかった東電の問題だ。
毎日新聞に限ったことではないが、マスコミの煽り体質はこの非常時にも治らないのか、と暗澹とした気分になる。