ギリシャ危機は対岸の火事だ

日経ビジネスオンラインに「ギリシャ危機、対岸の火事ではない」と題された記事がアップされた。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100713/215398/
国際通貨基金IMF)のエコノミストでもある慶応大学教授、白井さゆり氏が、ギリシャの資金繰りや財政再建策などの現状を解説、ギリシャの次に危ない国としてポルトガルやスペインを上げ、さらに通貨ユーロの今後を予測するといった記事だ。
読みやすくわかりやすい、おそらくは当を得ている好記事である。ところが、最後まできてズッコケる。

―― 欧州の危機が日本へ波及する可能性はどう見ていますか?
 現状は、対外債権国である日本については、欧州の影響が直接的に影響することは考えにくい。少なくとも、今日、明日の問題ではありません。日本の公的債務残高はGDP比で189%ですが、国内で国債の大半が消化されているうちは、影響は小さいと思います。

つまり白井氏は「ギリシャ危機は対岸の火事だ」と言っているのだ。「看板に偽りあり」もいいとこである。
これはおそらく、編集部のほうで予めタイトルを付けておいて、「対岸の火事ではない」という話を聞き出すつもりだったのに、実際に聞いてみたら「対岸の火事だ」という内容になってしまった…という事情だろう。にもかかわらず、初めのタイトルのまま押し切ってしまったものとみる。
読者の危機感を煽って興味を引くつもりで付けたタイトルを、変えたくないという気持ちはわからなくもない。しかし、実際に対岸の火事だと言ってる以上は臨機応変に、たとえば「ギリシャ危機は他人事ではない」くらいにすればいいものをと思う。
なお、白井氏は最後にとってつけたように、

 それでも、残された猶予は長くはありません。今の財政状況を続けていれば、高齢化も進んでいきますので、やがて、国債の大量引き受けを海外投資家に依存せざるを得ません。
 そうなれば、悠長なことはいっていられないでしょう。今の異常な状態は、日本の国民よりも、世界の方がよく知っていますよ。

と発言している。「続けていれば…やがて…そうなれば…」と、仮定に仮定を重ねているのに、どうして最後は「今の異常な状態」にオチるのだろう? 
これもおそらく「対岸の火事ではない」と同様、編集部が予め「日本の異常さは、国民よりも世界の方がよく知っている」という結論を用意していたものとみる。ところが当の白井氏は、そんなふうにはまるで考えていなかった。そのため、「続けていれば…やがて…そうなれば…」と仮定に仮定を重ねて、そこまでして何とか編集部の意に沿うような発言になったのではないか。
原因についてはもちろん、私の憶測に過ぎない。しかし、記事内容に指摘した問題点があることは事実だし、編集者の仕事とは概ねこうしたものなのである。